けいと

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのけいとのネタバレレビュー・内容・結末

4.6

このレビューはネタバレを含みます

長さを感じなかったと言ったら嘘になるけど、観終わった後はこの長さが必要だったと感じる映画だった。嫌な余韻がすごく心に残る。
個人的にスコセッシ作品は「誘惑に抗えない人間の弱さ」を描くことが多いと感じていて、本作においてもそれが当てはまると感じる一方、アメリカの暗部にも正面から向き合っていたのがとても印象的だった。淡々と進んでいく物語や固定ショットの多さなどからも、エンタメとして消化するのではなく事実に誠実に向き合おうとする姿勢を強く感じる。ラストの監督自身の登場シーンにもそれが強く表れていたように感じた。
また、モリーの視点から徐々に侵食されていくオセージ族の苦しみを体感することができた。モリーをただの被害者として描くのではなく、孤独でも抗っていく様子まで描いたのはとても良かったと思う。台詞が少なくても眼差しだけでそういった部分を表現したリリー・グラッドストーンの演技が素晴らしかった。ラストのアーネストとの決別もすごい良かった。
主人公のアーネストはすごい軽薄で、周りに流され続けていたらもう戻れない取り返しのつかない状況に陥っているという同情できないけど人間臭い人物だった。妻を愛しているけれど欲と周囲に屈して殺そうとする、だけど殺す覚悟がなくて自分にも毒を盛るというあたりが主人公の性格をすごい表していたように感じる。最後の最後まで周りに振り回され続けて、ラストでも嘘をついて取り繕ってしまうのが本当にどうしようもないと思う。その一方、作中で1番観客に近い凡庸な悪だとも思うので、思考停止でいることの危険性を改めて認識したし、気をつけなきゃなと思った。
ロビー・ロバートソンの音楽がすごい冴えていてよかったと思う。3時間半という長尺を最後まで観ることができたのは音楽の力も大きいと思う。
撮影もすごい冴えてて良かった。白黒映画のように色がなくなって陰影が強くなる後半の映像がすごい怖かった。特に、たくさんのヘイル側の人間が集まってこっちを観るショットが恐ろしかった。暴力描写も相変わらず前振りなく不意にやってくる感じでとても怖かった。
過度にドラマチックになることなく恐ろしい出来事が積み重ねられていく映画で、社会性を帯びたスコセッシの成熟を強く感じる映画だったと思う
けいと

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