バンバンビガロ

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのバンバンビガロのレビュー・感想・評価

3.8
1920年代に実際に起こった、石油利権を独占しようと企む白人達によって行われたオセージ族の連続殺人を描いた作品。
ここ最近西部劇ばかり観ている人間からすると先住民への迫害を題材にした作品を作るに際し、物語の視点をどこに置くかは非常に重要で、この映画が安易に先住民の視点から被害者の気持ちを代弁したり、先住民に理解のある白人を物語の中心に据えるというような愚を犯さず、ただひたすらに悪を悪として描くことを貫徹している点には好感を持った。
この映画を見て思い浮かんだのはハンナ・アーレントがナチスのアイヒマンを語るときに用いた「悪の凡庸さ」という言葉で、自らの思考や判断を停止してしまった人間が、信念も邪心も悪魔的な意図もないままに恐ろしい虐殺行為に手を染めてしまうという構図である。
本作でディカプリオ演じる主人公アーネストは先住民に対して明確な悪意や差別意識を持っているわけではなく、基本的に思慮が浅く、やや愚鈍なだけの凡庸な人間として描かれている。そんな凡庸なだけの人間が町の権力者で拝金主義者の叔父と先住民への搾取的構造に操られるがままに連続殺人に加担してしまい、しかもその重大性に最後まで本人だけが気づけていないという所により大きな悲喜劇性を見ることができる。
こうした凡庸で空虚な人間の在り方と社会の構造的差別意識が結託して引き起こされる最悪な出来事は現在にいたるまで幾度となく繰り返されてきたことであり、むしろ現代にこそこの映画が語る内容やアーネストという人間の在り方をわが身に引き付けて考えてみる必要があるのかもしれない。
また内面空疎な人間のもつ悲劇性はスコセッシ監督が繰り返し描いてきた題材でもあり、その表現において本作のディカプリオの演技は素晴らしく、彼のちょっとした目線の泳ぎや表情の揺らぎ、狼狽するしぐさなどが作品の説得力を一段上のものに高めているように思った。
バンバンビガロ

バンバンビガロ