CANACO

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのCANACOのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

事前に情報を全く入れずに鑑賞。控えめに言って個人的にはとても面白かったです。マーティン・スコセッシ×デ・ニーロ×ディカプリオは裏切りませんでした。

タイトルに「キラーズ」とある通り、連続殺人事件の物語です。大抵の殺人事件ものは序盤でジャジャーン!と派手に誰かが死にますが、本作は派手さは全くなく、真綿で静かに絞めていく地味暗さを貫いています。好みは分かれると思います。3時間26分ありますが、堅いです。

面白いと思ったらやっぱりノンフィクションで、アメリカのジャーナリスト、デヴィッド・グラン氏の著作を基にしているそうです。
原作の和名は『花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』。花殺し月とは5月という意味。ネイティブ・アメリカンのオセージ族特有の用語だそうです。皐月みたいなものでしょうか。

舞台はアメリカ・オクラホマで、時代は1920年代初頭。オクラホマ州オーセージ郡に実在したオセージ族に起こった「“恐るべき”ラッキー」な話です。
子孫もお金も尽きそうだったインディアンのオセージ族は、自分らの所有地から油が噴き出たために、個人所得額世界一の部族になって“しまった”。その後は“隣人”である白人に搾取され、子孫根絶やし計画まで実行される運命を辿ってしまう。

牛飼いのウィリアム・ヘイルをデ・ニーロが演じ、その甥をディカプリオが(キャスティング変更依頼をディカプリオ側から働きかけ)演じたそう。
犯人当て要素を削いだことでスコセッシ映画らしさが際立ったので、成功じゃないかと感じています。

タランティーノの『ジャンゴ』辺りからディカプリオの演技力に驚いていて、本作では、先見性が全くない、その場凌ぎで生きる小悪党だが、共感性と協調性は高いという相当に複雑な性格(端的にいえば優柔不断)のアーネストをしっかり演じ切ったと思います。リリー・グラッドストーンも、聡明だが一度愛した(赦した?)男を捨てきれない、内なる孤独も認識している妻のモリーを的確に演じていました。

私が本作をとても好きな理由のひとつは、自分がミステリー好きで、たとえばアガサ・クリスティ作品だったら真相で一気に語られてしまいそうな部分をじっくり見せていること。恥ずかしながらこういう作品を映画で見たことがありませんでした。
次に老練デ・ニーロの“悪さ”が非常に政治的で、とにかく嫌らしい。
加えて、陰惨なカネと殺人の物語にもかかわらず、ディカプリオとグラッドストーンの演技力の高さで、“優柔不断(決断しきれないこと)”と“愛の始まりと終わり”の物語が完全に理解できたことです。精神的に孤独ゆえ成立した2人の愛の関係は、映画過去イチに入るほど実写的でした。

デ・ニーロとディカプリオの関係性は、白石和彌監督作『凶悪』のリリーさんとピエールさんを彷彿とさせる感じでした。なお、ディカプリオが演じたアーネストのダメっぷりは、自分的には「映画で見たクズ男」ベスト3に入ります。

◻︎追記
混ぜ物のインスリンを打つアーネストについて、考察が分かれているのが映画好きとして楽しい。

アーネストは愛と小狡さと天然おバカが揃った、かなり複雑な人間だと思っているので、あの混ぜ物は糖尿病を増悪させるものだと薄々わかっていながら、半分思考停止(叔父にも恩義があるので、どっちについていいかわからずフリーズ)、半分は薄々あるいは本能的に「俺は知らないでやった」体で誤魔化せると思って打っていたと思ってます。なので、あえて、ヘイルが言った「落ち着かせるため」という表現を繰り返したんだろうと。なのに、その薬を自分でも飲んじゃうのがアーネスト(それもウイスキーで)。キャラクターを善人か悪人か決めたい人は辛いと思います。

モリーはここまで見越していたけど愛おしさを感じたので結婚した、でも最後は諦めて離婚したことが伝わったので、素晴らしいと思いました。
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