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キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのyumeayuのレビュー・感想・評価

4.0
"ショミカシ"

タイトルの『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』とは、オセージ族保留地において、4月に咲き乱れる小さな花が、5月になると背の高い草に覆われ、養分を取られ枯れてしまう「花殺しの月」のことだという。
これはまさしく、白人に石油の権利を奪われたオセージ族のことを指す。

本作はアメリカの黒歴史というべき事件を扱った同名の原作小説の映画化となるが、物語の構成が原作と異なり、警察側ではなく、犯人側からの視点で描かれているという。

さて、今作を語るうえで真っ先に話題に上がるのは、その上映時間。なんと3時間26分!
どうしても身構えてしまう時間だが、不思議と長さは感じない。
いや、もちろん長いには長いのだけど、見所が多くてダレることなく集中して見ることができたのは、さすがスコセッシ監督というべきか。

スコセッシ監督の作品の中では、『アイリッシュマン』や『グッドフェローズ』といった作品と類似性を感じる。
下っ端の悪役を主人公にしているところや、贖えない運命に翻弄されるところなどが似ていたと思う。

本作は、どこをとっても素晴らしい作品なのは間違いないが、本作を魅力的なものにしていたのは、やはりレオナルド・ディカプリオ演じる主人公のアーネストだろう。『グッドフェローズ』のヘンリーヒルのように上にこき使われる役だが、アーネストには彼のように成り上がろうとする向上心はなく、ロバート・デニーロ演じる叔父のヘイルに手のひらの上で踊らされる。

アーネストは根っからの悪いやつではないのだが、滲み出る天然のバカ。妻の事を愛していたのは間違いなさそうだが、一方で叔父にも逆らえず妻を殺そうともする。自分で考えて行動すると碌なことにならないため、その場しのぎ的に長いものに巻かれるといった行動を取りがちなアーネスト。全編に渡って、彼のしょうもなさが際立つ。

しかし、そんなしょうもない人間であるアーネストを魅力的に見せたのは、ディカプリオの演技が素晴らしかったから。
常に眉間にシワを寄せ、顎をしゃくらせている。これまでディカプリオは様々な役を演じてきたが、アーネストほどの凡人を演じたことはあっただろうか⁉︎
当初ディカプリオは捜査官役だったそうだが、役を入れ替えて演じたそう。この辺りの着眼点はさすが。

一方で、アーネストの妻であるオセージ族のモリーを演じたリリー・グラッドストーンも素晴らしい演技だった。これまでの出演作を見るとあまり日の当たるキャリアではなかったようだが、本作で一気に花開いたという感じだろうか。

とにかく濃密な3時間26分。
スコセッシ監督としてもキャリアの集大成的な作品になるのだろうと思いきや、すでに次回作が待機しており、他にも企画が溜まっているとのこと。

いやいや恐れ入ります。
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