エミさん

川沿いのホテルのエミさんのネタバレレビュー・内容・結末

川沿いのホテル(2018年製作の映画)
2.7

このレビューはネタバレを含みます

フィルメックスにて。ホン・サンス監督のヒューマン映画。白黒、ズームインアウトといった特徴は変わらず。過去、観客の視点を考えてカメラを固定撮影した作品が多いが、登場人物に沿う移動する映像などもあったのが、変わったところかなと思いました。

冒頭は、とある冬。初老の詩人が漢江沿いのホテルに泊まっている。息子2人をホテルに呼び出し、部屋で到着を待っている所から始まる。何か考え深げな暗い表情の詩人。いつも持ち歩いているメモ書きを見て溜め息をつくーー。

この作品も自己解釈の必要な難しい作品だ。生死がテーマとなっていて、詩人は、しきりとそのキーワードを口にする。冬という季節も、生き物が生の息吹を芽吹かせる為に、じっと耐え忍ぶ、静寂の季節だ。人間には、空気を読んだり、虫の知らせみたいな人智を超えた第六感の能力が多少なりともあったりするが、限られた時間が近いことも何となく悟れたりするものだろうか…。だとしたら、死期を知って苦しみながらも精一杯生きるのと、知らずに奔放に生きていくのと、どちらが有意義であろう?と、この作品を観て考えさせられた。

詩人が最後に作った詩を朗読するシーンがある。尖った歯がある特別な存在の子供が出てくるのだが、これは何のメタファーなのだろうか?
蝶よ花よと周囲の大人達に育てられた子供は、何にでもなれたのに、普通の大人になって周囲から飽きられてしまうのである。
これはレールを引いた大人の所為なのか?それとも、抗わなかった子供の所為なのか?ーー。
死を悟った詩人は『生きる』とはそういうことじゃない、…とでも言いたかったのであろうか…。答えは目に見えない。過ぎ去った時が、やがて示唆してくれるのであろう。

毎回、睡魔と戦い、観るたびに「何故、観ることをやめないのか?」と思ってしまうのだが、帰り道は毎回、捕らわれて映画について模索してしまっている。そして「もう、観るのをやめよう」と思うのだが、封切りの告知を見ると結局、決意が揺らいで座席指定のボタンを押してしまっている。こんなに観続けているのに、好きと言えず、未だ、作品の何が良いのかサッパリ解らないのに観ないことをやめられない…。私にとっては、ホン・サンスは本当に嫌な監督である。