青野姦太郎

狼よ落日を斬れ 風雲篇・激情篇・怒濤篇の青野姦太郎のレビュー・感想・評価

4.6
三隅研次の遺作の名に恥じない立派な映画。信じていたものが次々と崩れ去っていく幕末の動乱の中で、時代に翻弄されながらも実直に生き続ける杉虎之助(高橋英樹)の生真面目さに、どうしても撮影所体制が崩壊していく中で寿命をすり減らしながらも真摯に映画を作り続けた三隅の姿が重なってしまう。どこか無理して笑っている中村半次郎(緒形拳)のあの表情なども忘れがたいが、何と言っても素晴らしいのは、死の床にある礼子(松坂慶子)の最期の頼みを聞いた虎之助が障子を開け放つと緑の庭から冷たい風が吹く場面。三隅のフィルモグラフィにおいて幾度となく目にしてきた主題論的体系が走馬灯のように思い起こされる美しい瞬間であり、涙なしには見られない。