ちろる

ユメノ銀河のちろるのレビュー・感想・評価

ユメノ銀河(1997年製作の映画)
4.3
私は昔から夢野久作の小説の世界は大好き。
だから、彼の文章だけで少女たちの不気味な世界観をむやみやたらに映像化されるのは好きではなかったけれど、この作品においては何故だかすんなりと入ってきたのは、
モノクロの古ぼけた映像が良かったからなのだろうか?
まだ幼さの残る少女が地元を離れ働かなければならない時代、未熟ゆえに少し歳上の危険な匂いの男にハマってしまう。
もしかしたら友人を殺したかもしれぬその男を探りながら、自らそのアリ地獄の中に踏み入れて、あぁ彼にならば殺されても構わないと殺人リレーに取り入れられてしまう刹那的な世界。
この手のものはいくつもあるが、夢野の世界のあの独特な語り口で語られると妙に納得してしまう。
途中で挿入される夢野久作の短歌が、より一層陶酔感を与え、トミ子の半ば思い込みのような感情たちが美しいとさえ思ってしまうのだ。

トミ子を演じる小嶺玲奈さんの語りがこの幻想的な世界観にとても合っていて、
なによりもトミ子を惑わせる車掌新田高を演じた浅野忠信さんの不気味さが原作の「殺人リレー」からそのまま出てきたようだったから、これは数少ない夢野久作映像化の成功例だと思う。
夢野久作は小説だけで完結してると思っていたけど、こんな風にしっくりハマる作品が観られるのなら、監督にはまた別の作品も映像化してほしいと思ってしまいました。
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