ちろる

殺さない彼と死なない彼女のちろるのレビュー・感想・評価

殺さない彼と死なない彼女(2019年製作の映画)
3.9
私が死んでも世界は変わらないけど、周りの人の人生は変わる。
人は誰かと繋がらずに生きることは不可能だ。
そして、少なからずその1人は何人かに影響を与えているはずである。
いつか死にゆく時、誰かたった1人でも泣いてくれる人がいるのなら、命を軽んじてはいけない。

教室でハチの死骸を埋葬している鹿野ななはリストカットを繰り返し「死にたい」が口癖。
退屈な毎日に嫌気が差している小坂れいは、死にたいという割にはハチの命を重んじるクラスメイトの鹿野に興味を持ち始める。

青春ラブストーリー?かと観る前は思っていたが、

「死ね。殺すぞ」が口癖の小坂と、すぐに「死にたい」と口にする鹿野との緩やかな触れ合い。

幼稚園からの幼馴染の地味子ときゃぴ子の女同士の友情。

『地味子』の弟の八千代と彼を好きでしょうがない撫子の淡いラブストーリー

3つの関係を主軸に紡がれ、ストーリーは繋がっていく。

今に生きづらさを感じる少年少女たちを、主人公にして、ところどころに『死』を、チラつかせたこのお話、意外なことに全く重さがない。
それどころか、彼らの不器用な良いやりとりがたまにクスッと心を緩ませて、彼らをずっと愛おしいと思って見ていられる。

ところが後半に差し掛かると、ストーリーは大きく転調し、予期してもいなかった展開になるものの、よく考えれば伏線はしっかり張られていた非常によくできたプロットにしてやられた。

「未来の話をしよう」

未来は不確かで、曖昧だけど、確かにその手にある。
過去の自分を否定し続けても未来は笑いかけてくれないから、足踏みをしないで、誰かと未来の話を・・・
今どき高校生のキラキラ青春映画だと勝手に思っていたのだが、意外や意外大人にも突き刺さる演出で、泣かされました。
群像劇という形だったのも個人的に良かった要因。

奥華子さんの音楽が心地よく、ストーリーに非常によく馴染んでいたのも良かったです。
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