むら

空の瞳とカタツムリのむらのネタバレレビュー・内容・結末

空の瞳とカタツムリ(2018年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

センセーショナルな題材と展開のはずなのに、一つ一つの衝撃はあまり感じなく、観終わった後にグッとダメージを負っていたことに気付く、そんな作品。まるでカタツムリが恋矢で少しずつ命を蝕まれていくような。
タイトルの「空の瞳」はどういうことだろうと鑑賞後グルグル考えて、skyの空とemptyの空がかかっているのかなあとぼんやり。まるで上界から舞い降りたかのような穢れない人間たちが、社会で生きていくために汚れていかなくてはならない。夢鹿が誰とでも身体を許している姿はとても空虚で悲しい光景だった。
それぞれが別々の道に進んでいく結末が、希望なのか絶望なのか。観る人一人一人に想像を託されている作りはとても好みだった。「分からない」ということはとても良いことで、しかし「分からない」の中にも、選択肢のある「分からない」と、選択肢すら生まれない想像もできない「分からない」がある。前者の「分からない」だったこの作品はとても良質なんだと思う。その選択肢は、もちろん脚本や演出もあると思いますが、なにより重要なのは俳優の出力だろうと思っていて、それを巧みに描いている出演者の皆さんには純粋に尊敬。
観る前は2時間は長いと思っていたが、観終わった後はもっと長く、4時間くらい観ていたかったと思った。3人が出会うところから、あるいは出会う前から、彼/彼女たちがどういう人生を歩んできて、歩んでいくのかをじっくり眺めていたかった。
ただ、正直観た直後はこれが良い作品だったのか、よく分からず。途中まで俳優の顔があまり見えず(物理的ではなく心理的に)、特に夢鹿役のかのんさんはきっともっと綺麗な方だと思うのに何故だか美しく見えず、一番最後、住んでいた家を引き払うときにようやく顔が見えて(まるで憑き物が落ちたような綺麗な顔だった)、その時やっと夢鹿の言葉が素直に耳に入ってくる気がした。カメラワークも途中で不可解にブレてしまうところに拙さを感じてしまったり。
ジェンダーに囚われない、いわゆるノーマルな恋愛が揺らぐ若い時期って誰しもあって、そのモラトリアムな時を描いた作品って「アデル、ブルーは熱い色」とか「ムーンライト」(これはちょっと違うか)、「Call me by your name」「櫻の園」とかあって、軒並み好きな作品だからとても好きな題材なんだと思う。でも、なんかちょっと好きになりきれないのはなんだろうな。なんかこの作品は愛ではないんだろうな。愛なんだけど、愛じゃない気がする。愛の一歩手前という感じ。愛ってなんだろうって感じなのかな。愛だなあ!って見終わってはい終わりというより愛って…っていつまでも残っていく気がする。
むら

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