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ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

5.0
【中国にもあった『カメラを止めるな!』】
今回の東京フィルメックス最大の目玉は、中国の新鋭監督ビー・ガン最新作である『ロング・デイズ、イントゥ・ナイト』であった。『凱里ブルース』で衝撃デビューを果たしたビー・ガン監督の2作目はなんと3D映画!しかし、ただの3D映画とは違う。映画の中盤でメガネをかけるのだ!前代未聞の試み、そして予告編を観てもさっぱり内容が分からない。ユージン・オニールの戯曲『夜への長い航路(Long Day's Journey into Night)』とは関係あるのかすら分からない。そんな謎の映画を観てきました。

本作は、非常に説明が難しい映画だ。来年、日本で『凱里ブルース』と一緒に公開が決まった今言えるのは、「決して3Dになるタイミングについて語れない」ということ(これについては後日ネタバレありの記事で語ります)。あまりに素敵で、これから観る人の《驚き》を大切にしたいと思い、これだけは死守せねばと思った。そうなってくると、この物語について語るのが非常に厄介となってくる。描きすぎると勘のいい人には分かってしまうからだ。

そんな『ロング・デイズ、イントゥ・ナイト』をネタバレしないレベルで語ってみよう。まず、本作を観て感じたのは、『カメラを止めるな!』に近い構造の作品だということ。『カメラを止めるな!』では、前半30分のワンカットC級ゾンビ映画が伏線となって後半の笑いに繋がってくる。本作は、前半の断片的詩的男の回想がヒントとなって、ワンカット3Dパートで次々と謎が解明されてきて観客に高揚感を与える仕組みとなっている。映画のテイストこそ180度違うが、メカニズムは非常に近い。

そして、どちらも前半の種まきが見事な為、中盤から観客の好奇心を揺さぶりまくることとなる。

『ロング・デイズ、イントゥ・ナイト』の前半は確かにキツイ。ウォン・カーウァイかぶれなタッチ、ナルシズム溢れるカメラワークと語り口に落胆する。これは期待外れだと。しかも、内容も映像が凄すぎて全く頭に入ってこない。男は、かつての女を探しているらしいぐらいしか分からないのだ。また、「映画はシーンとシーンの繋がりを意識されているが、記憶は曖昧だ」と露骨に映画論を語り始める。これが前半80分、まさに映画1本分も展開されるのだ。徐々にビー・ガンのテンポに慣れてきて面白くはなってくるものの、見掛け倒しな映画に見える。

ところがどっこい!徐に3Dに切り替わると、今まで見えてきた残念な景色が絶景に変わる。入り口で渡されたのはちゃっちい、うっかりすると折れてしまいそうな3Dメガネなのに、まるでVRの世界に没入しているかのような世界が眼前に広がっているのだ。狭い鉱山を男が彷徨い、やがて少年に連れられるがままにビリヤード場へ向かい、そこで『パプリカ』のような浮遊感のある女性と出会う。まるで自分も、男の放浪の供となったかのように謎の空間を漂う。じっっっっっくりと目を凝らすと、前半に散りばめられた謎がパズルのように合わさり、全体像が見えてくる。そして鳥肌が立ちます。おっとこれ以上は言えません。日本公開するまでは、この映画について深追いをしない方が懸命かもしれません。とにかく、3D映画に切り替わるところが素敵なので、来年楽しみにしていてください!
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