作品世界に奥行きが加わり各キャラが愛おしく思える一方、大事なところでパワーダウンする演出が惜しく、青春映画のようなまとめ方に納得がいかなかった。
〈原作前半のエピソード〉はオリジナルな脚色ほぼなしでやっており、ストーリー的には原作に忠実と言って良く、漫画のコマをそのまま写したような丁寧な再現もある。
その一方で中盤の秘密基地の場面では、仲村さん(玉城ティナ)は尊大な“女王様”として君臨するはずなのだが、カメラワークのせいだと思うが威厳が足りなかった。そのせいで春日くん(伊藤健太郎)のドM性が視覚的に伝わらない。
それからデート中の公園ぶっかけもそう。ふつーの幸せを打ち砕く唐突感も迫力も全くない上、原作のバケツの水から缶のコーラに変更され、〈水量が多いから中に着ている体操着が透ける〉という重要な要素をわざわざ伝わりにくくする演出が意味不明だった。
展開的にはかなり駆け足。それ故に序盤の春日くんと仲村さんの関係性の描写が甘く、独特な関係性の機微と段階が伝わりづらい。
これでは仲村さんはただの危ない人になってしまう。
佐伯さん(秋田汐梨)も優等生から勘違い女に陥っていく過程が映像的に見えにくい。
キャラの微妙な心理の変化を追うのが一つの醍醐味でもある作品だけにもったいない。
そしてなんといっても残念だったのは、激しい過去を背負った主人公がこれまでを直視してどう乗り越えるのかといった成長の物語が描かれず、「大変だったけど青春の思い出」としてきれいにまとめてしまったこと。
尺の問題はあるにせよ、これでは『惡の華』ではなくなってしまう。
そんな本作、中2を演じた健太郎は、持ち前の青臭い雰囲気も合わさって暗さ、憂鬱、ストレートさ、思春期の暴走を表現しきっていて違和感なしの春日くんぶりは予想以上。
仲村さん役のティナ。“女王様”の妖しさ、艶かしさ、色気がむせ返りそうなくらいダイレクトに伝わってきて漫画を超えた。
一番驚いたのが汐梨。当時16歳。この年齢だと再現不可能かと思えた秘密基地での「行為」まで遠慮なく佐伯奈々子そのものを体現していてすばらしいとしか言いようがない。