ヨミ

キングスマン:ファースト・エージェントのヨミのネタバレレビュー・内容・結末

3.4

このレビューはネタバレを含みます

キングスマンでちょっと泣くとは思わなかったなあ。

同時に、「別にキングスマンじゃなくても良くね?」となったのはある。
キングスマン1作目の衝撃は、主として面白殺人シーンとそれを支える映像のテンポ(そして音楽)だった。
今回、少なくとも前半場面において面白殺人は鳴りを潜め、むしろ映像の妙に振られていた。これは個人的には「ちょっとあざとくなーい?」と思うくらいではあったけど、しかし目は気持ちいい。現代映画の編集技術の極地として『アイアンマン3』のエンディングが挙げられるが、ずっとそんな感じ。ちょっと盛り盛りすぎて品はなく、ジャンクフードだが俺はそういうの好きなので……。空撮のロング・ショットから地上のバスト・ショットへひと繋ぎにしたり、パラシュート時の飛行機や剣の鍔からのようなアクションカム的映像は思わず唸る。ちょいちょい挟まれるFPS的なPOVショットは、映画がむしろゲーム表現に寄っていることを強く再確認させてくる。
極め付けは第一次世界大戦の全然におけるコンラッドの戦闘シーンで照明弾が多数上がるところは、新海誠的な美しさに画面が満ちる。HDR的なハイ・コントラストの美しさが、同時に、それゆえに死の匂いを充満させる。
また、本作は面白世界史ものという側面が強く「ラスプーチンが失敗してロシアが思い通りにいかない! なら次はお前に任せた! 同志レーニンよ!」とか笑っちゃうよね(最後のオチは読めすぎててちょっと空回りしたが。そこはボヘミアの伍長じゃなくてゲッベルスとかでもよさそうだが)。サライェヴォ事件も全部やってました!的なのが何の説明もなくいけるのは義務教育って役に立つよねと思う。
しかし戦争という巨大な物語を大きく描いたせいか、「人命」の取り扱いにはモヤるところがある。面白殺人シーンは少ないとは言え、それなりにあるし、第一次世界大戦が最初に映されるところでは、テンポ良くひとが撃たれるキングスマン的な映像となっている。戦争の意味、というところを考えてしまうとあまりに面白おかしく(というかこれまでのキングスマンの意味の平面上で)やるとちょっと悩む。最後の戦いで、戦地の記録映像の前で2人が戦うことで、影が映像に落ちる、という場面がある。恐らく記録されている表とその裏側、という隠喩なのだろうが、個人的にはむしろ「100年前にこうやって本当に死んだひとがいたんだよなあ」と違う意味で涙ぐんでしまった。例えば『プライベート・ライアン』でも面白おかしく人体が飛んでいくが、あれは戦争という平面で行われるからこそ面白くも怖がりつつ観られる。キングスマンは良くも悪くもブランドが成立してしまっている以上、どうもちぐはぐな印象が拭えない。

あと、ずーっと「こいつどこで見たんだっけな」ということを思い続けていた。主役のレイフ・ファインズはクレイグ007のMだと調べて分かった。『ノー・タイム・トゥ・ダイ』のとき、「こいつキングスマンやるんだよな」って思った記憶がある(てかヴォルデモートやってたひとなんだね!)。本作で1番かっこいいポリーのジェマ・アータートンは『慰めの報酬』でボンド・ガールのストロベリーをやったと。覚えてねえよ。クレイグ版はマドレーヌが全部持ってったからな……。でも超かっこよかったです(ポリーは確実にジェンダー・バランスを整える配役なんだけど、最近それってどうなの?と思っている。男よりもしっかりしていて頼れてかっこいい女性キャラ、みたいなのばっかりじゃない?ジェンダー・バランスってそういうこと?だってそんなのはもう何十年も前からポール・ヴァーホーヴェンがやってたもん)。あとダニエル・ブリュールはマジでずっと何で見たか思い出せなかったんですけど出演作を見る限り『イングロリアス・バスターズ』っぽいですね……。あの、主役のユダヤ人の子を好きになっちゃう映画好きナチスのひと?

役で言えばラスプーチンが良すぎたというのはある。俺もチャイコフスキーに合わせて殺人舞踏やりたいぜ。ウェルベイク・ケーキを秒で吐くとこのびっくり人間みも良かった。
あと「歴史裏から操り委員会」のシーンはずっとなんか弛緩してるのだけどうにかしてほしかったな。ずっとおかしさが抜けないんだもの。ラスプーチンが「俺の指輪、亀かよ〜」って文句垂れたのにボスがキレると「ふふふ……昔から、亀は最後に競争に勝つとされている……」って納得するの、怒られて強がってるお子様じゃん。あとボスは動物にキレすぎてて誰もが読めた末路でしたね。
ヨミ

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