Eita

インソムニアのEitaのネタバレレビュー・内容・結末

インソムニア(2002年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

自宅近くにあったTSUTAYAでも、サブスクでもなかなか見つけられなかったこの作品、ついに鑑賞できた…!個人的にはそれだけで感激。

内容はそこそこソリッドな王道感のあるサスペンス・ノワールって感じだ。だからか、正直既視感あるというか、ダブって見える作品も多い。ただし、捜査して犯人を見つけ捕まえるところに面白さがあるわけではない。犯人も中盤には判明するのだし。それよりも、以下に記す部分がこの作品の旨みだと思う。

不眠症と主題との繋がりはパッと見にわかりにくい。「いい警官は謎解きで眠れず、悪い警官は良心が眠らせない」とアラスカの白夜、真実と虚構(証拠偽造、幻覚、果ては内心)。以上の揺らぎの結節点としてのウィルの不眠症。口では目的は手段を正当化すると言っていたけれど、果たして本当か。その信条がハップ誤射へと導いたのではないか。目的(犯人; フィンチ)はするするとウィルの手から逃れ、汚れた手(手段)はさらに汚くなるばかり(血で汚れるシャツ)。ついには目的によって目も曇る(霧)。自らのしていることがわからなくなる。内心がわからなくなる。あれは故意だったのかどうか。そして虚構を作り上げる。おちおち寝てもいられない。

彼が心から安らかに眠れるのは、真実が人に知れ渡った時…それもその人、エリーはウィルを尊敬していた人だ。まあ細かく見ていくと違いは見つかりそうだが(フィンチは睡眠薬を服用して寝ていたのとか)、一見すると確かにウィルとフィンチが為したこと(故意に殺してはいないこと、証拠を偽造したこと)は似ている。しかし、ウィルとエリーの関係、フィンチとケイの関係まで踏まえると、最後この点(誤った道を是とするか否か)がおそらく2人の分水嶺となったのだろう。現実世界で虚構を利用する刑事と虚構で世界を創り上げる作家の対比も面白い。似てはいるが、決定的に違う。それが明らかになるのが最後。

レイチェルは言っていた。アラスカには2種類の人がいる。ここで生まれた人と、何から逃げたくて、自由を求めてきた人。ただ、後者とて、過去は受け入れるしかないのだ。良心は眠らせない。

そしてここまでくると、先ほど言及した目的は手段を正当化するというセリフに戻ってくる(作中では、レイチェルとの会話の中で出てくる)。利害の一致から共謀したかに見えたが、やはりウィルとフィンチは目的においても異なっていなかったか。そこからの決戦。紙一重ではあるのかもしれないが、彼らは最初から違っていたことの示唆。これらからもわかるように、王道な内容、王道っぽい結末ではあるけれど、その過程や人物描写・人間関係描写等、その実結構複雑だと思う。扱っているテーマ、特に虚構というものの性質について意識的に取り上げている点は、クリストファー・ノーランが他の作品で描いていることにも繋がる部分がある。

ここからは不満点。鑑識があの薬莢見逃すだろうか…アラスカ(田舎)の警察だからってこと?あと、血が布に滲む描写がたびたび出るけれど(『メメント』を思い起こす)、今回ばかりは冒頭いらなかったのでは。ミスリードしたいのはわかるが。ロビン・ウィリアムズはあまりハマらず。というか役柄が小物というのがミスマッチなのか。ただロビン・ウィリアムズくらいの役者じゃないと、本当に小物になっちゃいそうだから微妙なところかもしれない(フィンチは小物っぽくない小物、”三流”なのが重要だと思う。対してアル・パチーノ演じるウィルは作中”英雄”、つまり一流なのだ)ここら辺はマイナスポイントかなあ。ロケーションは面白かった。
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