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インソムニアのEyesworthのレビュー・感想・評価

インソムニア(2002年製作の映画)
4.9
【夜が訪れない恐怖】

クリストファー・ノーラン監督が初めて監督した大手映画スタジオ作品。ワーナーブラザーズとの良好な関係は本作から始まり、その後彼は連続して9作ワーナーのもとで作ることになる。キャストは主演アル・パチーノ、ロビン・ウィリアムズ、ヒラリー・スワンク等。

〈あらすじ〉
アラスカ・ナイトミュート。夏は24時間太陽が沈まないその町で、17歳の少女の変死体が発見される。翌日、ロス警察のウィル(アル・パチーノ)が相棒のハップ(マーティン・ドノヴァン)とともに応援にやって来る。今までの豊富な経験を駆使し、犯人をおびき出す方法を思いつくウィル。やがて思惑通り、海辺の小屋に犯人が姿を現わす。しかし、深い霧に犯人を見失ったウィルは誤って相棒を射殺してしまう。自分が射殺した事実を地元警察に告白しそびれたウィルは白夜も相まって不眠症に陥る。不眠が続いて3日目の早朝、ウィルのもとに少女殺しの犯人から電話がかかってくる…。

〈所感〉
ノーラン最初期の作品で、近年の時間軸の捻じ曲げ等のノーラン調は薄いためかあまり評価されていないようだが、非常に面白かった。もともとノルウェー映画の同タイトル作品のリメイク版であり、本作で見られるアラスカの白夜はもともと北欧の白夜だったそう。北欧の白夜は、えも言われぬ幻想的な現象に思えるが、アラスカの白夜はなんだか不気味で不穏だ。本作では、ロサンゼルスから訪れたウィルは完全に我々と同じ「ここには夜は無いのか?」という反応を見せてくれる。さらに、その場所で彼が起こしてしまった事件も相俟って、いつまで経っても平穏・静けさが包み込む時間が訪れない。彼はインソムニア(不眠症)に陥ってしまい、結局6日間も眠ることができなかった。その苦悩を唯一共有しているのが皮肉にもロビン・ウィリアムズ演じたウォルター・フィンチだった。神の共犯者たる刑事と犯人がお互いの命運の綱を握り合う手に汗握る展開が物珍しく非常にドキドキさせられた。アル・パチーノの罪悪感と焦燥感と眠気に徐々に抗えず、注意散漫になっていく演技が素晴らしい。序盤あれほど振りかざしていた長い経験に基づく警察論、正義論に自らが振り回される姿がシニカルすぎた。一方でロビン・ウィリアムズは、ハリウッドを代表するピーターパン的なヤングさ、コミカルさを持つ名優だが、この作品では人を一切信用しない典型的なサイコパスで、閉塞的で鬱屈している人物として見事にハマっている。この2人のストーリー上のやり合いも演技上のやり合いも見応えあって最後まで楽しめる。初期のノーラン監督を知る上で重要な一作だと思う。
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