samiam

破天荒ボクサーのsamiamのレビュー・感想・評価

破天荒ボクサー(2018年製作の映画)
4.0
まったくのノーチェックの作品だったが、先週ウーマンウーマンウーマンを観賞時に劇場でチラシを見掛け知ることが出来た。興味を惹かれ、これは観なければと思ったが2週間限定の上映である上、難しい時間帯。本日何とか時間を調整出来て観ることができた。
これは観て良かった!!

山口賢一選手というボクサーのドキュメンタリー。彼は日本のプロボクシング制度を変えようと試みた。何故?現行制度の何がいけない?を丁寧に現した作品。
もちろん彼は初めから日本プロボクシング制度に不満を持っていた訳ではない。
選んだジムの中で自らを鍛え試合を重ねる中で疑問が湧き、行き詰まりを感じ、そして道を探っていくことになった。

初戦を引き分けた後4連勝するも、次の試合でKO負けし、力を付けるため他ジムの選手とのスパークリングを重ねる。ところが、パーティーでの飲酒により謹慎となり謹慎中にタイに武者修行に出る。帰国後11連勝するが、何度ジムにお願いしてもタイトル戦を組んで貰えない。そこで、日本での試合を諦めジムを出て世界で闘う方法を模索する。
因みに所属していたジムは辰吉丈一郎を育てた大阪帝拳。名門だよね。ところがそのときの会長はボクシング未経験の二代目。
海外ではロッキーや他のボクシング映画でも分かるように、ジムはあくまでも練習場所で、選手がトレーナー、マネージャーと契約して練習をし、プロモーター、マッチメーカーが試合を決める。ところが日本では選手がジムに所属し、ジムがトレーナーも試合も全てを決める。選手が一度ジム特に会長に嫌われるといくら選手にやる気と実力があってもタイトル戦などは組んで貰えない。山口さんは真っ直ぐで自分の意見をはっきり言う性格故に、明らかに会長に嫌われてしまった。世界に出て行った後もJBCから様々な妨害を受けている。
最近ではアマチュアのボクシング協会の体質が問題となり会長が辞任に追い込まれ改革が行われたことは記憶に新しい。プロの方はそこまで酷くはないと思うし、協会側にも色々な大人の事情があるとは思う。日本の制度にも選手の安心感などの利点は確かにあり、私が大好きな選手も皆その団体に所属している訳で。。。
しかし、旧態依然とした性質が厳然として残っていることは、本ドキュメンタリーを観る限り明らかである。協会側は、現行制度が最善と考え、それを守ることが正義であると考えて行動しているが、それにより実力のある選手が日の目をみないケースがあることは間違いないように思える。まるで最近観た映画で、以前米国の法曹関係者が国を守るためには現行の制度が最善と考えて新しい考えを排除していたところをRBGキンズバーグさんが闘って風穴を開けたように、山口さんはJBCに対して闘っている。未だ道半ばだが。。。

山口さんは本作を観る限り非常に魅力的な素晴らしい人間。後輩の面倒見が良いことも本作の中でも良く示されている。プロで4団体でチャンピオンとなり、今度はオリンピックを目指すことで有名になった高山勝成選手もJBCを出ることを余儀なくされた時に、山口さんの開いたジムに身を寄せている。
また、高山さんのトレーナーを彼の全キャリアにおいて勤めている中出さんが山口さんを要所要所の場面においてサポートしているのだが、この中出さんがまた素晴らしい人物。エディ・タウゼントさんの弟子。関係ないけど中出さんの容姿やしゃべり方がジャズピアニストの小曽根真さんにそっくりでちょっと驚いた!😁

山口さんの凄いところは、行き詰まった時に自ら動いてこれまで誰もやったことのない打開策を切り開くところ。
日本ではプロボクシング唯一の団体であるJBCのジムに所属することが許されず、自分でジムを開き、そこで選手として練習する。JBCでは選手のままジムを経営することも許されていないという。
山口さんが最後の世界タイトルに臨んだWBOという団体はのJBCの認可を受けておらず、そのタイトル戦を開催した山口さんは犯罪者扱いで言わばJBCからは永久追放、セコンドに参加した中出さんは、トレーナー資格剥奪されている。

実は私も若い頃地元の小さなボクシングジムに所属していたが、近くの大きなジムから絶えず圧力を受け長い間ジムの存在が認められず、潰そうとされたこともあった。私がプロテストを受けるときも、2つほど4回戦の試合を組んで貰ったときも、他のジムの所属として登録をせざるを得なかった。私が経験したことは大したことではないが、本当に才能があり努力している人が報われるように、この様な古いしきたりや土壌が少しでも早く改められることを切望する。。。🙏
samiam

samiam