ジェイコブ

ザ・ピーナッツバター・ファルコンのジェイコブのレビュー・感想・評価

4.0
老人ホームで暮らすダウン症の青年ザック。彼は持ち前の人当たりのよさから、入居仲間の老人達の人気者だったが、プロレスラーを夢見て、学校に入るために何度も脱走を試みている問題児であった。ある日、他の入居者の力を借り、脱走する事ができたザックは、フロリダへ向かう厄介者の漁師、タイラーの船に潜り込むことに。タイラーはザックを追い払おうとするが、彼が自分と似た境遇に置かれていることを知り、彼の夢を叶える手助けをすると決めるのだが……。
障害を持つ青年と、心に孤独を抱えた青年が、フロリダまでの旅を通じて、心身共に成長していくハートフルドラマ。これまで「チョコレートドーナツ」や「レインマン」など、障害を持つ人との交流を通して、健常者が自身の問題と向き合い、成長していく作品は作られてきたが、本作はまた一味違った内容である。
悪役レスラーに憧れるザックを見たとき、かつて乙武洋匡氏が「将来は悪役をやってみたい。とことん残酷な人間になって、世間の抱く障害者のイメージをぶち壊したい」と言っていたのを思い出した。乙武氏は世間が押し付ける障害者の先入観に対し、繰り返し異議を唱えてきた人だが、本作のザックもまた、重なる所があるように感じる。ザックは誰に対してもフレンドリーであり、自分の気持ちに決して嘘はつかない。そんな彼が悪役に憧れる理由は、世間や周りにいる自分を見下してくる健常者に対しての、反抗心に他ならない。
ザックは念願叶ってソルトウォーター・レッドネックの弟子となり、プロレスの試合をさせてもらえることになるが、対戦相手が本物の「悪党」であるのがまた面白い。ザックは対戦相手に叩きのめされそうになるが、タイラーの応援もあり、自慢の怪力を発揮して勝利する。その際、相手に吐いた精一杯の侮辱が、「お前なんか俺の誕生日パーティーに呼んでやんねえ!」なのが、また彼の善良さを表していている。
見た後、心がほっこりするような作品。