なべ

特捜部Q カルテ番号64のなべのレビュー・感想・評価

特捜部Q カルテ番号64(2018年製作の映画)
4.4
 おおおおぉぉぉーー!見応えあるじゃんよ。シリーズ4作目にして、今までのテレビ映画っぽい作風を卒業して、ついに映画としての風格が。化けたな、Q!
 どんよりと陰鬱な北欧トーンはそのままに、よりショッキングに、よりサスペンスフルにスケールアップしてきやがった。冒頭の、壁の向こう側で食卓を囲むミイラなんてかなりイケてるから。思わず身を乗り出したもんね。

 ちょっとネタバレになっちゃうけど、これに触れずしてカルテ番号64の素晴らしさを語ることは不可能なので言っちゃうね。
 今回の特捜部Qは優生思想がテーマ。映画ではナチスのような白人至上主義者が悪魔の所業を働いていたけど、これって、1990年代にスウェーデンで明らかになった事件がベース? 知らない人のためにざっと説明すると、優生学を背景にした強制不妊治療が国家ぐるみで(それも福祉国家でだよ!)実施されてたという一大スキャンダル。当時、日本でもマスコミが大々的に取り上げてた(自国の優生保護法のことは棚に上げてね)から覚えてる人多いよね。
 でも特捜部Qの舞台はデンマーク。スカンジナビアの各国はどこも似たり寄ったりの断種法を実施してたのか? 福祉国家と断種法は結びつきやすいからな。
 そうした国家の恥を、白人至上主義異業種連合に置き換えて、見事なサスペンスに仕上げてきたわけだ。
 さすがに国家の犯罪では特捜部には手の出しようがないので、「寒い冬」という秘密結社にしたところが巧い。やっぱりカールとアサドが逮捕できる相手じゃないと。てか、こんな犯罪を暴いたQ課は、もはや暑のお荷物ではなくて、最も輝かしい部署だよね。いつだって過去の未解決事件と現在の犯罪は根っこでつながってるんだから、いい加減、上層部もQの価値を認めてスタッフ増やしてあげなよ。あ、カールの人としての存在が問題か。ほんと厄介な人だなあ…。

 前作までと同じく、過去と現在が交錯するつくりは同じだが、前述のミイラ事件とスプロー島女子収容所(実在した施設)での出来事がともに秀逸。おぞましくも美しいカメラがとてもいい。悶絶する。
 アサドの人事異動や襲われるローセ(!)、アサドに懇願するカール(ここ一番の見せ場です!)など見どころも盛り沢山。いつもの特捜部Qとは一味も二味も違うからね。
 何より悪の大きさ、腹立たしさが際立ってる。もうすごくムカムカするから。ムカムカするからー!
 うん、今回はドラマ・コールドケースより優ってた。これで終わりなんてぼくは許さない。原作はまだあるんだから、ぜひとも継続して欲しい。

 どうでもいい話だけど、劇中、クアト医師の異常ぶりを示す例として、ヴィクトリア朝時代の遺体記念写真(アザーズにも出てきたアレ)が出てくるんだけど、実はぼくもあの写真が好きで、デスクに飾りこそしないが、写真集は持ってる。
 死人を生きているように撮るポストモーテムフォトグラフィは、現代の価値観からすると不快にみえるが、当時の死生観からしたらごくごく自然なこと。故人を生かして見せる技は、却って死の荘厳さや遺族の悲しみを感じさせる独特の悼みだと思えるんだよね。だから変態の証としてあの写真を使われると、ああ、ぼくも変態なのかと思わされて、胸がチクッと痛む。
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