空海花

ザ・ライダーの空海花のレビュー・感想・評価

ザ・ライダー(2017年製作の映画)
4.3
『ノマドランド』でアカデミー賞ノミネートで話題になり、TLでも賑わっていた作品。
監督・脚本クロエ・ジャオ
落馬事故で大怪我をした若きカウボーイが生きる意味を探す物語。

舞台はアメリカ中西部、サウスダコタ州
実際にロデオで活躍していた青年、
ブレイディ・ジャンドローが自身の身に起きた出来事を、クロエ・ジャオのもとで演じた。
ジャオは別の企画で前にブレイディと知り合っており、事故はその後のこと。
再会したジャオが彼の物語を映画化したという。
姓こそブラッグバーンと変えているが
家族や周囲の人達も本人役で登場する。
この作品自体も2018年の賞レースで話題になり
ゴッサム・インディペンデント映画賞や全米映画批評家協会で作品賞を受賞している。
シネフィル・オバマ元大統領もお気に入りにリストアップした。
日本では未公開。

美しい荒野に居る馬の撮り方に眼を奪われる。
馬の息遣い、水の音、風の音、煙草の灼ける音を浮き立たせて。

主人公ブレイディは、俳優でないどころかロデオボーイとも思えない
端正で繊細な顔立ちである。
この繊細さが馬に伝わるのか。
馬への愛情がこちらにも伝わってくる。
優しい眼差しと触れ方。
荒野の墓碑はほんのり色づいていて
文字が何だかかわいい。
まるで本当に未知の場所に来たようだ。

繊細とは言ったもののカウボーイ、
生き方はワイルドなのだろう。
雑然と置かれた薬、コイン、薬莢。
汚れた鏡。
自分で抜鉤する姿に目眩が…💫

妹リリーへの愛情、互いの優しさも愛おしい。
妹に貼られたシールを取っておいてる…
洒落たタトゥーとか仲間に言わせるのがお洒落🌟
本物のタトゥーもイケてる。

妹の子守歌、
仲間たちの祈りと焚き火と月
“全てのものは繋がっている”
牧歌的な歌を荒野の闇で弾き語る。
彼らは自然の前で、祈りを捧げる。

馬、朝陽、夕陽、宵闇
時の流れ、空がとにかく美しい。
馬がかわいい。
白い馬の白い睫毛。
バーには古いゲーム機、馬?の頭骨。
野原に置き去りのエンジン。

レインというブレイディの兄貴分。
彼も落馬事故に遭い、後遺症はブレイディよりずっと重い。
2人の笑顔はあまりにも自然で嬉しそうだ。
芝居ではないのか
撮り方、脚本の相乗効果なのか。
わからないが、そこからわかるものは
尊敬と絆、そして人生の厳しさ。
誰がいつどうなるかもわからない。
それでも求める気持ちに
必要なのは折り合いか、それとも…?
私は手綱を握り締める手を見つめることしかできない。

調教のシーンに神々しい太陽の光。
彼は調教の魔術師のようだ。
今、ここで、彼でしか撮れないものが
観る者の心を突き動かす。
どうやって撮っているのかわからない。
だが好奇心が止まらない。
そんな自分が嫌になるほど
在るものすべてを崇高なものに映している。

クロエ・ジャオ監督は、自身の人生と
彼らに強いシンパシーを感じていて
人や動物、自然物すべて
生きとし生けるものへの尊厳を大切に抱いているのだろうと思わせる
力強さと繊細さを持った作品だった。

『15時17分、パリ行き』が本人役で記憶に新しいが、
その場所に生きる人達という意味では
実話ではないが『存在のない子供たち』を思い出す。

ある意味で地味な題材の作品である。
強いて指摘すると
ロデオなどはもう少し見せ方があったかもしれない。
馬ロデオの世界が私には未知過ぎた。
生きる意味はある時突然霧散することがある。
それは周囲とは関係なく、
胸の内の葛藤とは裏腹に、
見た目静かなものだ。
だからこそここにはドキュメンタリーのような真実味がある。
だが、ドキュメンタリーも実は創作物には違いない。
ありのままの現実とそこにどう向かうのか、彼女はどんなメッセージを放つのか
この監督のこれからを観てみたい。


2021レビュー#076
2021鑑賞No.122


地味で粗い部分もありましたが
映画の運命を感じるところもあり
1度は観ることをオススメしたい作品でした。
Netflix4/6今日まで⚠️
最終日に言うなw😅

昨日のレビューではたくさんのコメント、いいねをありがとうございます🙇
フィルマでは今のところ特に何も変わりませんので
これからもよろしくお願いします!
空海花

空海花