シズヲ

ザ・ライダーのシズヲのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・ライダー(2017年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

「頑張れよ」
「お前もな、カウボーイ」

競技中の事故で後遺症を背負ったロデオカウボーイが、葛藤と苦悩の狭間で自らの生きる道と向き合う。後に『ノマドランド』や『エターナルズ』を手掛けるクロエ・ジャオ監督の初期作。主演のブレイディー・ジャンドロー(ネイティブ・アメリカン系らしいのが印象的)やその親族など、本作のモデルになった事故の当事者達がそのまま本人役を演じているのが凄い。こういった手法は『15時17分、パリ行き』を彷彿とさせるし、僅かな所作によって主人公の情感を表現するブレイディーの演技は(それらを引き出した監督の演出的な手腕も含めて)特に素晴らしい。

本作の物語に劇的な抑揚は無く、人生の岐路に立たされた主人公の“魂の放浪”が淡々と描かれ続ける。撮影がとにかく素晴らしく、サウスダコタの広大な風景の美しさに終始引き込まれる。荒涼とした大自然を捉えたロングショットの数々が実に秀逸であり、中でも仄暗いマジックアワーの情景は本作を象徴するように鮮烈に映し出される。その心震える静寂美は映画の叙情性を際立たせ、そして主人公の忽然たる閉塞感を浮き彫りにする。そうした映像の中で仄かに輝く“人間と馬の繋がり”が印象深い(映像の美しさも含めて後の『クライ・マッチョ』を想起させる)。本作はカウボーイのイメージや『レスラー』のような挫折劇から連想される泥臭さからは程遠く、寧ろ神秘的な色彩すら感じられる。

美しい情景の中で描かれる主人公の葛藤、恐怖、諦念……“アイデンティティの喪失”と“夢の挫折”に直面し、途方の無い未来を手探りで彷徨っていく哀愁が痛ましく切ない。西部開拓時代から変わらず、走る力を失った馬は撃って楽にしてやるしかない。ならば馬に乗れなくなったカウボーイはどうなるのか。競技中の事故で重度の障害を背負った兄弟分のロデオカウボーイ、脚に深い傷を負って安楽死させられた馬、その両者がある種象徴的に描かれる。

絶望と閉塞の果てに訪れるラストの展開がとても好き。あの場に家族が来たからこそ“挫折”を許容する決意へと至り、諦めを受け入れる勇気を得たからこそ“再起”へと向けて背中を押される。新たな人生の受容によって閉ざされた道に一筋の希望が指す、そんな落伍者に向けられた“慈しさ”が愛おしい。主人公の決意を察した同僚のカウボーイが一言の労いと共に彼を送り出す瞬間、再起不能になっていた兄弟分が「夢を諦めるな」と主人公の背中を押す瞬間、どちらも胸を打たれる程に印象深い。
シズヲ

シズヲ