MasaichiYaguchi

サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.7
LGBTをテーマに、トランスジェンダーであるが故に学校で苛められ、家族にも理解されず、“居場所”のない主人公の青年ユリシーズが「サタデーナイト・チャーチ」で出会った人々との触れ合いを通して“本当の自分”を解放していく姿が様々な愛の歌に彩られながら描かれていく。
本作は現代のニューヨークのブロンクスが舞台になっているが、私の認識ではニューヨークはジェンダーに関してもっとオープンだと思っていたが、現実は必ずしもそうではないらしい。
LGBTに対して風当たりの強いトランプ政権下のアメリカでは、尚更その傾向は強くなっているのかもしれない。
そんな逆風の中、社会のマイノリティである人々は“オアシス”を求めるかの如く「土曜の夜の教会」に集う。
主人公をはじめ、そこに集う人々は社会や家族、そして愛する人に受け入れられないことを嘆きながらも、愛を信じ、自分を肯定して前向きに生きたいとミュージカルタッチで高らかに歌い、踊る。
この作品はミュージカル仕立てになっているが、昼間の教会とは全く雰囲気が違う、LGBTの支援プログラムである「土曜の夜の教会」は実際にあり、監督と脚本を担当したデイモン・カーダシスのボランティア体験と綿密なリサーチに基づいて製作されている。
聖書では「神の前では人間は平等である」と説いているが、この作品を観ると、それは「土曜の夜」だけであり、そのシンデレラタイムにしか自分を解放出来ない。
本作のLGBTに対する偏見、根強くある人種差別、これら排他的、不寛容な社会がもっと風通しが良くなればと心から願う。