トモヒコ

サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所のトモヒコのレビュー・感想・評価

4.8
 映画に出てくるドラァグクイーンと言えば僕は『RENT』のエンジェルが真っ先に思い浮かぶのですが、Today for you♪と陽気に歌っていた彼(彼女)を含め、現代のストリートに、貧困とともに生きるLGBTQを思うと、この映画がコミュニティの内側からメッセージを発しているように思えてなりません。
 家を飛び出して、地域コミュニティの中で生きることを選択したその過程は人それぞれでしょうが、本作の主人公ユリシーズのように、セクシャリティに対して無理解な家族への絶望や生まれ育った環境での生きづらさは誰しもが感じることだと思います。その不満や怒りが極に達し、ついに家族や友人との訣別を選び取るときの、身を裂かれる思い、というのは、Let it goやThis is meを歌うときの勇気と希望に満ちた感情と常に相克し合う関係にあり、本作はその絶望や落胆に近い方の感情が全面的に取り上げられています。
 本当の自分を表現するために、従来の環境を抜け出すということは、「本当は理解して欲しかった人たち」を諦めるということは、やっぱり悲劇的でもあるよね、ということを認めてくれる本作は、サタデー・チャーチ・プログラムをボランティアとして経験し、本人がゲイであることをアウティングしているデイモン・カーダシス監督だからこそ作ることのできた、LGBTQのための映画だと思います。舞台的なミュージカル演出の構成やバランス、繊細な感情の機微をみせるフレッシュな俳優たちと、技術的トピックにも事欠かない本作。見逃すのはすごいもったいないと思うし、僕は『クリード/炎の宿敵』かこれが今年いちばん泣きました。早朝の新宿ピカデリーで自分でも引くほど泣きました。超おすすめです。
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