アキラナウェイ

サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所のアキラナウェイのレビュー・感想・評価

3.6
劇場で観たかったけど、タイミングが合わなくてスルーしちゃった作品。

少年が本来の自分に目覚め、
本当の居場所を見つけ、
その一歩を踏み出すまでの物語。

NYのブロンクスに住む少年ユリシーズ。父の死を境に、自分の性に目覚め始め、「美しくなりたい」という衝動を抑えられなくなる。ストリートで出会ったLGBTQの人達に連れられて来られたのは、"サタデー・チャーチ"(LGBTQへの支援ボランティア団体)。彼にとって、其処は、自分を偽らず自分らしく居られる唯一の場所だった—— 。

ブロードウェイの若手俳優ルカ・カイン。
細く伸びた肢体で演じたユリシーズが印象的。

母のクローゼットからハイヒールを拝借して、
鏡の前で履いてみる時の背徳感。
"仲間達"にリップを塗ってもらった時の高揚感。
同年代の少年レイモンドに惹かれる恋心。

繊細な心の揺らぎを自然体で演じている。

弟の手前、男らしい兄を演じなければならないし、母が夜勤に出るようになってからは、敬虔なクリスチャンである叔母の監視も厳しい。抑圧されてばかりの毎日が辛い。

隠れてハイヒールを履いていると弟にバレて、
叔母に告げ口されて、
こっぴどく叱られて、ユリシーズは居場所を見失ってしまう。

世界は何でこんなに生き辛いんだろう。

LGBTQの仲間達が素敵。
虐げられた経験がある彼らは、いつだって優しい。
弱い者には手を差し伸べる。
そんな、当たり前だけど今は誰もが忘れがちな事をサラリとやってしまえる気前の良さが小気味良い。
チャーチを支えるボランティアのお婆ちゃんが、腕にタトゥーがあるけど、これまた優しい。
人のさり気ない優しさがほっこり温かい。

合間合間に挿入されるミュージカルシーンは、数あるミュージカル映画に比べるといささかパンチに欠ける印象だったかな。

ドラマの山場としても、柴田理恵に似た叔母に罵詈雑言を浴びせられるシーンがクライマックスで、どうもこじんまりと纏まってしまった感は否めない。

それでも、ラストシーンのユリシーズの美しさは必見。

真っ直ぐ正面を見据えて、
ランウェイを胸を張って歩き出すユリシーズに心を奪われる。

"生まれてきたあなたを見た時、完璧だと思ったわ"
母の言葉が胸を打つ。

サタデーだけじゃなくて、
ナイトだけじゃなくて、
チャーチだけじゃなくて、
毎日、いつでも、何処でも、
皆んなが自分らしく生きられる。
そんな世界が来るといい。