サマセット7

彼らは生きていた/ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールドのサマセット7のレビュー・感想・評価

4.1
ドキュメンタリー作品。
監督は「ロードオブザリング」シリーズ、「キングコング」のピーター・ジャクソン。

[あらすじ]
本作は、英国の帝国戦争博物館(IWM)が所有する第一次世界大戦の映像を利用して製作された、ドキュメンタリー作品である。
開戦から終戦までを、退役した兵士たちの実録のインタビュー音声(BBC及びIWM提供)と共に振り返る。
元々は無音、モノクロ、コマ送りの粗い映像だったものを、現代の映像技術で着色、読唇術を用いた声優による吹替え、編集を加えて、リアルな映像に生まれ変わらせている。

[情報]
ピーター・ジャクソン監督は、第一次世界大戦に従軍した祖父にこの映画を捧げている。
監督は、今作の製作に報酬を受け取っていないとされている。

今作は当初限定的に公開されたが、後に拡大公開。
2000万ドル強を売り上げている。

参照された映像は100時間、インタビュー音声は600時間に及ぶ。

タイトルは「戦没者のために」という詩からの引用。

一切のナレーション、場所や日付の説明が排除されており、全てがインタビュー音声で語られる点に特徴がある。

批評家、一般層共に極めて高い評価を受けている作品。

第一次世界大戦は、1914年7月28日から1918年11月11日まで繰り広げられた戦争である。
イギリス、フランスら連合国とドイツ、オーストリアら同盟国の間でなされた。
7000万人以上が動員され、戦闘員だけで900万人以上が戦死したとされる。
史上最大の戦争の一つである。

戦死者数が膨大になった原因は多様だが、移動技術革新により、大量に人を動員できるようになったこと、兵器技術革新により大量の人を殺戮できるようになったこと、国民国家の成立により国家総動員が可能になったこと、多国間の軍事同盟の成立により、連鎖的に列強が戦争に加わったこと、そして、世界が世界大戦を経験していなかったことなどが挙げられる。

今作は、イギリス人視点のドキュメンタリーであり、いわゆる西部戦線(独仏国境沿いの戦線)にフォーカスされている。
西部戦線は塹壕戦(互いに塹壕という長大な溝を作り、塹壕を拠点に敵国の侵入を防ぐ、というもので、基本的には防衛戦である)により膠着し、戦争が長期間にわたり、大量の死者を出した原因となった。

[見どころ]
実際に撮られた映像に彩色、編集が加わることで生じる、凄まじいリアリティ、生々しさ。
荒漠とした戦場の凄まじい悲惨さ。
年端もゆかない兵士たちが笑顔で戦場に向かい、死んでいった歴史的事実が突き付けられる。
戦争が無益であり、回避のために全人類があらゆる努力を払うべき、という強いメッセージ性。

[感想]
序盤と終盤の戦争の前後はモノクロ、無音の粗い映像が使われている。
それが戦場に至って、彩色、編集、音声の付与がされた後の、ゾッとするような生々しさ。

死体がガンガン映り込むので、ダメな人は避けた方がいいかもしれない。

しかし、戦場の現実を映し出すのに、これ以上の作品があるわけがない。
何しろ、実際に現実をとらえたものだから。
どんなリアルな映画も、現実には及ばない。

この映像の説得力は凄まじい。
打ちのめされる。
絶対に戦争など行きたくないし、子供たちに関わらせたくない、と思わせられる。

兵士たちの年齢の低さ。
国のプロパガンダで若者たちが進んで戦争に参加していったこと。
戦場の意外な日常感。
まだ馬で砲台を運ぶなど、技術的な成熟の過程であること。
砲弾の行き交う塹壕の悲惨で不衛生な生活。
戦闘の狂気。
すぐそこに死が充満していること。
敵もまた人であること。
市民生活と戦場のあらゆる乖離。
終戦後の帰還兵の不遇。

文字で書くと、なんと虚ろなことか。
これが、映像とインタビュー音声となると、響き方が幾万倍となる。

歴史を保存する、という意味で、極めて価値のある作品と思う。

[テーマ考]
色々なことを考えさせられる。
戦争の無惨さ、非生産性を表現していることは間違いない。

なぜ、この戦争が起こったのか、今後、どうすれば同様の事態を回避できるか、ということまで今作は語らない。
しかし、まずは忘れずに覚えておくこと、そして考え、学び、より良い方向に一歩でも前に進もうとすることが大切ではないかと思う。

何しろ、ここまでの犠牲を出しながら、人類は学ばず、20年後にはさらに多くの死者を出す第二次世界大戦が起こるのだから。

[まとめ]
最新技術を活かした、戦争ドキュメンタリーの労作。
ピーター・ジャクソン監督は、何しろロードオブザリングシリーズで知られる。
近年は今作とビートルズのドキュメンタリーも公開しており、歴史の保存に関心が向いているようだ。
引き続き注目したい。