ジェイコブ

Fukushima 50のジェイコブのレビュー・感想・評価

Fukushima 50(2019年製作の映画)
3.0
2011年3月11日。マグニチュード9.0、震度7という観測史上最大となった東日本大震災が発生した。未曾有の大震災で日本中がパニックに陥る中、福島第一原子力発電所では、今正に国の存亡を揺るがす事故が起きようとしていた……。
東日本大震災で起きた福島第一原発事故を描く社会派映画。誰も経験したことのない規模の災害に直面しながらも、被害を最小限に食い止めるために現場で命を削りながら働いた作業員達。自身の判断が国の命運を握るプレッシャーに耐えながら、寝る間を惜しんで対応に当たった所長の吉田氏や関係各所。彼らがいなければ被害はもっと広がっていた事は明白である。
年月が経ち、設備が整った安全な場所から見れば、あの時のあの判断は間違っていたなど、いくらでも言う事はできるだろう。だが、その瞬間に現場に立った時、同じように適切な処置が下せたか、判断を誤ることはなかったか、それは誰にも保障はできないのだ。
ただ、映画として見ると、いくつか不満はある。序盤から中盤にかけての緊迫感や津波のリアルさなどは非常に良かったのに対し、中盤からラストにかけて、無駄なシーンが多すぎる。各国のニュース映像や、アメリカ大使館のゴタゴタ、在日米軍司令官の回想などは要らないし、その分作業員一人ひとりの境遇や、伊崎と吉田のバックボーンを丁寧に描いた方が物語に深みが出ただろう。何より、原作通りなのかまでは分からないが、作者自身の考え方が見え隠れするあまり、台詞が胡散臭く見えた場面が散見された。シャレードを使うなどして含みを持たせないと、取り上げる題材はいいのに、押し付けがましく映ってしまう。極めつけが、ラストの一文だろう。東京オリンピックについて触れる必然性は感じられないし、感傷に浸りたい観客にとっては完全な蛇足となっている。いっそ桜並木からの福島の風景を映して終わるか、HBOのチェルノブイリのように、関係者のその後を説明した方がいい。
渡辺謙をはじめ、役者陣の名演が光っており、彼らなくして成り立たない映画だっただろう。改めて、あの時、現場に立った人々への敬意を思い起こさせてくれる作品。