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Fukushima 50のPokkopokkoのレビュー・感想・評価

Fukushima 50(2019年製作の映画)
2.5
原発事故以降、できるだけあの事故のことを知ろうとした自分にとっては非常にモヤモヤと苛立ちが残る映画だった。

冒頭に、事実に基づく映画と銘打ち、吉田所長以下原発の現場で作業にあたっていた人々は実名で描かれていくのに対し、総理、官邸、東電のトップは名前を隠して描かれていく。その中途半端さは、特に時の総理…つまり菅元総理を悪しざまに描き作業員を「フクシマ50」というヒーローとして立てるために使われていく。

事故現場に命をかけて残った人々には本当に感謝しかない。沢山の取材もされただろう。自分にあの人たちのように、国民を守るために家族を犠牲にしてまで自分の命をを投げ出せただろうか?と考えるとその極限状況の中自信がない。

しかし菅総理には取材をし、どういう人物だったのかきちんと調査したのだろうか?
菅さんの元側近が、この映画で菅さんは特に本人と全くキャラクターが違うと書かれていたことが非常に気になる。
原発事故をある人物の責任…しかも現政権が批判しやすい人物の責任にし、原発事故を自然災害であると断じることには強い疑問を感じざるを得ない。

それもそのはずで、最後には復興五輪としてのオリンピックのメッセージが提示される…ああなるほど、復興はもう大体終わりましたよ、と、その前提ありきの映画か、と(このことはラストに描かれるが映画の本質とはかかわらないのであえてネタバレではないと考え書いている)。
まだ仮設住宅に住まざるを得ないひとがいるのに?

他にも突っ込みどころは多々あるが、福島原発事故で命を賭した人々を、現政権に都合の良い形だけで描いたこの映画にはかなり異様さを感じた。
あの事故は、自然災害がきっかけであったが、明らかに人災ではなかったのか。
原発ありきの社会で未来図を描いた日本の長きにわたる官僚的政治と東電の癒着、そして安全神話を信じ、それを許した私たちみんなの責任ではなかったのか。
この映画を福島の人たちが見たらどう思うのか。自分には、「ふざけんじゃねえよ」という声しか想像できない。
何を美化してんだよ。嘘を信じこまされて、全て奪われて、まだこんな風に福島を描くのかよって。

反面、あの事故で危機に瀕した人物を演じる俳優陣には本当に気迫を感じた。その熱量、俳優の力をこの映画では生かしきれていないと言っても良いと思う。
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