リーアム兄さん

ホテル・ムンバイのリーアム兄さんのネタバレレビュー・内容・結末

ホテル・ムンバイ(2018年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

【好きなセリフ】
へマント・オベロイ料理長「忘れるな。当ホテルではお客様が神様だ。」

2008年、ムンバイに住むアルジュン(デーヴ・パテール)はインドを代表する高級ホテル「タージマハル・ホテル」のレストランで給仕をしている。幼い子が1人と、これから生まれてくる子の二児の父親でもある彼は養育費を払うためにもへマント・オベロイ料理長(アヌバム・カー)のもと多くの仕事をこなそうとする。タージマハル・ホテルにはアメリカ人のデヴィット(アーミー・ハマー)とインド人のザーラ(ナザニン・ボニアディ)夫婦と元ソ連軍特殊部隊将校のワシリー(ジェイソン・アイザックス)という2組のVIPが滞在しており、ホテルのスタッフは皆気合が入っていた。そんな中、ムンバイ南部の中心駅であるCST駅で無差別テロが起こる。ムスリム教の青年数人が西洋化しつつあるインドを元に戻すために起こしたテロだが、タージマハル・ホテルもそのターゲットになっていた。ホテルも襲撃をされ、テロリストに占領されてしまったが、ムンバイには対テロ特殊部隊がおらず、デリーからの増援を待つしかできない状況。そんな中、ホテルのスタッフ達は救助隊到着までの間、お客様をホテルから脱出させるために行動する。

2008年11月に実際に起きた、ムンバイ南部での同時多発テロに基づく作品。
日本にも「お客様は神様」という言葉があるし、自分もお客様目線を考えて働く職種にはついているが、実際にこんな事件が起こったら自分の命よりもお客様を優先して行動できるのだろうか…?タージマハル・ホテルでの犠牲者の半分が客を守るために残った従業員だったなんて…
まずはこのホテルの従業員に敬意を表したい。

この映画にはさまざまな要素が入っているように感じた。
まずはテロの要素。テロを起こした青年達はムスリム教のインド人で、作中ではムスリム教徒の客を殺すことへの葛藤が現れる。ムスリム教の教えに従ってテロを起こしたにもかかわらず、ムスリム教徒を殺さなければならないという矛盾に悩む青年がとても印象的だった。宗教というのはここまで人を動かす(変えてしまう)力があるのかと改めて実感した。
そして当時のムンバイ地元警察の要素。デリーの特殊部隊がなかなか到着しない中、6人でホテルに突入した警官も登場し、大きな危険があることはわかっているが、助けなければならないという信念を画面から感じ取ることができた。
3つ目は植民地的要素。映画にダイレクトに表現されているわけではないが、元イギリス植民地であったインドのホテル従業員が宿泊する西洋人に対して最大限におもてなしをしており、アメリカ人のデヴィットやロシア人のワシリーはどこかそれにそっけない態度をする。そのほかにも従業員に対して横柄な態度を取る西洋人という描写があり、個人的にはそれが気になってしまった。
そして最後はタージマハル・ホテルの従業員の素晴らしさ。繰り返しになるが、お客様のためにここまでやれるのか。本当にすごいと思った。まだこのときに従業員をしていた人が今もタージマハル・ホテルで働いているらしいので、もしお金があれば、だけど一度はタージマハル・ホテルに泊まってみたいと思った。

お客だからサービスされるのが当たり前。ではなく、サービスに対して「ありがとう」と感謝することが大事。

俳優陣もデーヴ・パテールは不安を抱えながらもお客様も救うために必死に戦うアルジュンをとても素晴らしく演じている。中心的にお客様を非難させたオベロイ料理長を演じたアヌバム・カーも素晴らしい。
あとはナザニン・ボニアディ。「ホームランド」のファラ役きっかけで好きになったけど、この映画でも美しさは変わらず。
そして最初はゲス野郎かと思ったけど、なんだかんだでいてくれるととても頼りになるロシア人を演じたジェイソン・アイザックス。「スターリンの葬送狂騒曲」でもジューコフ将軍を演じていたが、下劣さの中にある渋さがすごい。カッコ良すぎる。

内容も役者もすべて素晴らしい映画でした。
なかなか2008年のインドで起きたテロのことを知っている人は今は少なくなっていると思うので、このNetflixで配信されたタイミングで多くの人に見てほしい。