Solo1968

ホテル・ムンバイのSolo1968のレビュー・感想・評価

ホテル・ムンバイ(2018年製作の映画)
3.9
そうか、忠誠心 ね。

 見始める前にレビューで、事実に基づいた作品という情報を知った。 
こんな凄い規模の無差別テロ事件が報道されていた事を全然覚えていなかった。きっとテレビなどで目にしていたはずなのに。
 この作品を観た事で この悲惨であり、また忠誠心を貫いた多くの被害者、そして忠誠心により多くの被害者を産んだ組織の実行犯のあって欲しくない恐ろしいこの事件を僕は忘れる事なく心に残すことになった。

 数年前に観た アルゴでの後半ハイライトにおけるスリリングな緊張感が常に存在する息つく暇がなく、一瞬にして現場に引きずりこまれた。

 大して多くの映画を見てはいないが、こういったテロリストによる犯罪、脱出 アクションものはいくつか見てきてはいたが、いづれも 被害者側の視点のみで、テロリスト側をここまで描いているものは、見たことがなく、その部分が単に イスラム教徒=怖い
というだけでなく、本事件における現場で大量の殺戮を行なわされたイスラム教徒の若い男性達の心情を表すシーンも多く、なかなか感情移入は出来ないものの、見終えた後に色々と考えさせられた。

また、本作で訴えたいテーマのひとつである、ホテル従業員達の高貴で勇気ある行動に対しても、それが劇中でむやみなドラマ感を演出する事なく、あくまでもごく自然に描かれていたところがとても好感的。下手すると そこの部分の人間ドラマにより過ぎてしまうと、胡散臭い安物の作品に成り下がってしまいそうだが、とてもシンプルに最小限でその勇気ある行動を描いているのが見事。


自分達の勤め先であるホテル
ホテルの利用客は神であると。
自身の命を盾にして宿泊客を守る事に何の疑いも持たない。
なんて、心の強い美しい人達なんだろう。
ホテルの業務規定や厳しい上司からの指示という事でなく、あくまでも ホテルと宿泊客を守ったのは、規則命令ではなく、彼らの勤め先のホテルに対して、すなわちお客様への忠誠心をいかなる時も貫くという 自己判断。


方や テロリスト集団の若者達の心情を描くシーンにおけるこれまでの色々な映画ではあまり見ることの出来なかった部分が、僕にはとても深く残った。

誰も彼もが洗脳されて、何事も迷いなく、言葉通り「殺せと言われれば殺す」というわけでもなく、何かと引き換えに 自身の危険を犯してまで、その行動に出ていたこと。そこには、彼らにも存在する家族を愛する気持ち 貧困 その原因、、を偏った教えにより盲目的なく悪の愚像を植え込み 神を崇めるある意味とても美しい心を
恐ろしい殺人者へと誘導する指導者。
時折垣間見られる指導者と頻繁に行われる会話において、実行犯の中でゆらいでしまう 忠誠心に大して何度も何度も 神への忠誠と言い聞かせ殺人 破壊を押し進める指導者とのシーンとのコントラストがとても印象的。


従業員達は、自身の判断で命を捨てる覚悟で人を守る行動を貫き、結果多くの犠牲者をだした。

テロリストは、家族を守りたいがために、指導者に揺らぐ忠誠心を後押しされながら、罪のない多くの人を殺す。機動隊により彼らも逮捕または、射殺される事となるが、特に機動隊が到着してからホテルに火をつけ脱出するまでの彼らの緊張感もとても良く伝わった。



童話の「北風と太陽」
をなんとなく思ったりもした。






 
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