いのしん

ホテル・ムンバイのいのしんのレビュー・感想・評価

ホテル・ムンバイ(2018年製作の映画)
3.9
ホテルを占拠したテロリストとそこからいかにして逃げようかと奮闘する客・従業員の様子が描かれ、心理戦やどんでん返しなど一切ない、頭を使わずに観ることのできる、かつ実話をもとにしたスリルのある作品。テロリストから逃げるスリルは「最後の約束」、生きるか死ぬかは時間の問題という脱出劇は「ポセイドン」と似たものがある。助けが来るのをその場で待つか、一刻も早く危険なこの場から逃げるか。どう行動するかの選択が運命を分けるのだが、いざ自分がその場に立たされたら、どうするだろうか。結局動かないだろうな、と思う。とはいえ、「ポセイドン」も本作も、待たずに逃げた者のうちの一握りが助かっているのだから、やはり行動した方が助かる確率はあがるのだろう。
悪夢のような出来事を経験するからこそ、日常の何でもないひとときが幸せと感じるのだろうな。自分が死ぬ時、愛する人がいるか。愛してくれる人がいるか。そういう最期を迎えたい。人質として殺されようが、病気で死のうが、ひとりぼっちの最期って嫌だな。
ウェイターのアルジュン(デーヴ・パテール)がすごい良い働きをする。銃で撃たれた客を見殺しにできないと、自らの命を顧みず、ホテルから抜け出して病院へ連れて行こうとしたり、大勢の人たちを安全なチェンバーズラウンジに誘導したり。家族がいるにも関わらず、お客様は神様の精神で自分の仕事を全うするのは、ホテルマンの鏡である。そして、ベビーシッターのサリー(ティルダ・コブハム=ハーヴェイ)もまた、デヴィッド(アーミー・ハマー)とザーラ・カシャニ(ナザニン・ボニアディ)の赤ちゃん・キャメロンを最後まで守りきるという仕事の完遂っぷりがプロ。声をあげて泣く赤ちゃんと一緒にいることはあの場からしたら絶体絶命にも関わらず、無事生還するのは強運すぎる。