喜連川風連

ばるぼらの喜連川風連のレビュー・感想・評価

ばるぼら(2019年製作の映画)
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バルボラ。黒手塚と言われる時代に書かれた手塚治虫社会派時代の作品。

「掃き溜めのような大都市の片隅で見つけた女。ばるぼら」

カメラはしきりに、東京の暗部を捉え、風俗街・浮浪者・ドブ・溝などを写す。

舞台は新宿。

原作が描かれた当時、70年代新宿には浮浪者のようなフーテン族が駅に横たわり、都会の掃溜めのような場所はたくさんあったものの、現代ではそれを目にできる場所は限られている。

今でいう渋谷に近い街だったのが70年代の新宿だ。

68年には新宿騒乱と言われる若者の暴動事件も起こり、73年の順法闘争では乗客が暴徒化した。今の我々からは想像できないほどに新宿はエネルギッシュな街だった。

映画内では、現代の新宿地下通路のシーンも出て来るが、どうしても綺麗に写ってしまう。そうならないように、歌舞伎町や北池袋など風俗街のシーンが差し込まれていたものの、時代が纏っている空気が違う。

こうした背景の下、手塚原作ではスランプの作家がある女との出会いを通じて、文学賞を取りながらも、女との別れから暗転し、再び書けなくなっていくまでを描いている。

映画では美倉が小説を描き、小説賞をとるまでの描写が省かれているため、ばるぼらが芸術のミューズであるというのがわかりづらいという痛恨。

原作でのテーマは一貫して「作家のスランプと芸術論」であったが、本作では「女に溺れていく作家の男」に換骨奪胎されており、残念。

二階堂ふみさんの好演やレコード・レンズフレア・鏡を使った怪しげなカメラワークなど、良いショットがいくつかあっただけにもったいない。

当時、劇画の台頭から手塚のマンガは古いと言われ、スランプに陥っていた状況とリンクする形で描かれた漫画版のバルボラは大傑作。

映画版バルボラ、100分ではあまりに短過ぎ、魔的な響きも艶っぽさもあと一つ物足りない。
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