MasaichiYaguchi

波乗りオフィスへようこそのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

波乗りオフィスへようこそ(2019年製作の映画)
3.5
I T企業社長・吉田基晴さんの「本社は田舎に限る」を原案に、関口知宏さんが映画初主演した本作は「地方創生」をテーマにしていて、劇中に幾つも印象的な台詞が登場する。
その「地方創生」の中で「学びと気付き」という言葉が出てくるが、登場人物同様に我々も作品を通して“建前”ではないものを感じ取れると思う。
更に「東京には選択肢が沢山あるが、地方には限られたものしかない。だから我々は、そこに選択肢を作り出していかないといけない。」という言葉が本作の根幹だと思う。
東京の一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけて経済を活性化しようという「地方創生」は安倍政権が掲げた政策の一つだが、それを推進するのは、政府でも行政でもなく、本作の主人公・徳永のような地元の人々と同じ視点を持ち、“フロンティアスピリット”で活動出来る民間人なのだと思う。
徳永の場合はUターン起業なのだが、地縁のある彼でさえ新たなことを地方でやっていくことの大変さをつくづく感じる。
今、「働き方改革」が叫ばれているが、仕事、家庭、趣味という“オン”と“オフ”のワーク・ライフ・バランスをどう取ったら良いのか迷っているサラリーマン諸氏は多いような気がする。
この作品は、そのような働く人のワーク・ライフ・バランスに関して一つの回答を出している。
映画館や演劇やライブが開催される劇場、ゲームセンターやパチンコをはじめとした遊技場、そういったエンターテイメントは都会に集中していて、地方にはごく限られたものしか楽しみはないが、本作に登場したサーフィンが楽しめる海や緑豊かな山、そのような風光明媚な自然は都会にはない。
そして下町には昔ながらの向こう三軒両隣的な文化も残っているが、住民の高齢化と共にそれも薄まってきている。
映画で描かれた地方社会は閉鎖的なところもあるが、一旦懐に入ってしまえば、そこには温もりと絆がある。
この作品は「地方創生」とは如何なるものなのか、そして人生の一つの選択肢としての可能性を希望と共に我々に提示している。