「阿鼻叫喚」
この映画を映画館の大画面で見た人はレジェンドじゃない?天才となんとかは紙一重と言うけれど、そのナントカの方が強調されていて非常に見応えがある。「東海道四谷怪談」に引き続き、天知茂を堪能することになった。大学の講義のシーンから始まる。なんと天知さんは大学生の役である。めっちゃ似合っていない…(笑)
前半は主人公四郎が暮らす都会での話で、後半は母危篤の知らせを聞いて四郎が故郷の田舎へ帰ってからの話になっている。この後半の部分がとにかく凄い。摩訶不思議というのか、支離滅裂というのか、奇想天外というのか… 要するに阿鼻叫喚である。
四郎の友人の田村という人物が出てくる。沼田曜一が演じているのだが、凄い悪役顔をしているのでハマり過ぎていて苦笑するほどだった。田村は悪友と軽く言えるような存在ではない。文字通り悪の友人で、まるでメフィストフェレスのような誘惑の悪魔なのである。監督の頭の中には、ダンテやゲーテがあったのではないかなあと想像した。…と思っていたら解説に「仏教の八大地獄の映像化がテーマとなっているが、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの『ファウスト』やダンテ・アリギエーリの『神曲』など、西洋思想における悪魔や地獄のイメージも盛り込まれている」と書かれてあった。やっぱりねえ。
潤沢な予算を思う存分に使って、自分の趣味を貫き通して映画を作るのは、さぞや至福の時間だっただろう。そういう意味ではフェリーニを連想してしまう。「女の都」も支離滅裂な映画だったっけ…
とにかく映像の色彩が印象的である。毒々しいカラーだけれど、それがこの映画に合っている。特に、私の大好きな「赤」!泥のようなねばっこい赤だ。絵具も血糊もねと~~~っとしていて小気味いい。こういう色は最近の映画にはないので、とても貴重だ。
一点の清涼剤は、やはり三ツ矢歌子だろう。一人二役を演じている。若くのびやかで美しくて清楚なお嬢さん役がとてもよく似合っていた。
こういう超絶ウルトラ個性的映画は好き嫌いがあると思う。私は変わった映画が大好きなので高得点をつけてしまうが、不安な方はぜひ私以外のネタバレ無しレビューを読んでから鑑賞してください。