じゅ

オオカミの家のじゅのネタバレレビュー・内容・結末

オオカミの家(2018年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

うわこわい。小さい豚からペドロに、大きい豚からアナになるそれぞれの中間体こわい。ヒトの手脚生やしてはいはいする豚こわい。


物語の位置付けもだいぶやばいな。
チリ南部の山の中のコロニア。「助け合って幸せに」を謳うそのコロニアは、外界の誘惑に負けず人間らしく暮らすために外界との交流を断っている。外界ではコロニアの悪い噂が流布されているが、無知の者の悪意の産物に過ぎない。この度、コロニアからの友好の証として、チリ政府の援助も受けて製作したお話をお届けする。
みたいなかんじだったと思う。

コロニアにマリアという美しい娘がいた。働かずに動物と遊んでいたマリアは、3頭の豚を逃してしまう。100日間誰とも話してはならぬという戒めを受け、マリアはコロニアを逃げ出した。
オオカミから隠れて逃げ込んだ森の中の家には2頭の豚のみ。マリアは魔法のボールで豚に人間の手脚を与えた。メスとオスをそれぞれアナとペドロと名付けた。その後ヒトの姿を与えたアナとペドロに言葉を教えながら、マリアは穏やかに3人で暮らした。
しかし、やがて食糧がなくなっていく。マリアは家の外へ出てリンゴを採ってこようとした。しかし、オオカミが来ることを案じたアナとペドロに止められた。しかしそれで空腹が収まるはずのないアナとペドロは、マリアをベッドに拘束して食らおうとした。マリアはオオカミに助けを求めた。オオカミはマリアを助け、コロニアに連れ帰った。
マリアはコロニアで教育を受けている。


コロニア・ディグニダに関係する映画初めて観た。エマ・ワトソン主演のあの『コロニア』とか、『コロニアの子供たち』とか、題名くらいなら聞いたことあるけど俺の初めてが『オオカミの家』になるとは。だってまあ、劇場で『骨』と同時上映するって言うもんだから。

コロニア・ディグニダは、今ではビージャ・バビエラというのに名前を替えているみたいだけど、チリにあるドイツ人居住区だそう。1961年にナチ党院のパウル・シェーファーが逃げ延びてきて設立した。反共を謳って時の政権(ピノチェト辺り)と結びついて、拷問施設や化学開発工場の役割を果たしてきた。キリスト教系カルトの色合いも濃く、絶対的指導者のシェーファーによる児童虐待も繰り返された。
以上、『コロニア』のフロリアン・ガレンベルガーのインタビュー記事だけど、Yahooニュース参考。(渥美志保、「レイプと虐待が繰り返されたベッドで眠ることを、両親は誇りに思っているんです」、2016/09/17)

ドイツ人による閉じたドイツ人コミュニティについての語りから入ってるあたり、やっぱコロニア・ディグニダの話なんだなあと思った。舞台はチリの山の中だし。


コロニアから脱走したマリアが森の中の空き家に逃げ込んで豚さんと生活を始めるっていうわけだけど、ぱっと見た印象だと結局マリアが作り上げた暮らしは結局のとこ第二のコロニアだったってことかなと思った。まあ、マリアがたぶんコロニア生まれコロニア育ちだろうからそうなるのも自然な気はする。

豚に喩えられた、世界を知らぬ知恵のない小さい者に独善的に知恵を与える。食卓のキャンドルを倒してしまって火が燃え広がった時は豚の「肌が黒くなってしまった」と嘆く。コロニアの名産品らしい蜜を与えて、ペドロなんかには「ハンサムになる」と言ってブロンドの白人の姿を与える。この蜜は、地面に隠されていて選ばれた子にしか与えられず、そもそも黒人には与えられないらしい。やがて扉も窓も閉め切って内と外を完全に断絶する。そうするとアナやペドロも見たことすらないはずのオオカミとやらを恐れ、扉を開かず外へ出ないようにする。
オオカミはいつでもマリアの中にいるって語りかけてた。それまでコロニアで生きてきて醸成されたコロニアの一員たる何かが、まさにマリアの中のオオカミなんだろうな。とはいえお外にはお外にもマリアが逃げてきたコロニアの人たる実在のオオカミがいるだろうけど。

結局マリアに巣食うオオカミが、マリアの住み着いた家を彼女にも無意識のうちに小規模のコロニア・ディグニダにしてしまったかと思ってる。


それで結局マリアは、オオカミを恐れて外に出られないまま飢えたアナとペドロに文字通り食われそうになって、最終的にオオカミに助けを求めた。
これが比喩なのかとか、元々豚だから人が人を食うよりハードル(?)低いのかとか知らんけど、つまるとこマリアはコロニアでしか生きられなかったんだという風に理解してる。

逃げ出した少女の意識にコロニアが悪夢のように付き纏いながら、結局少女はコロニアのようなやり方でしか生きられず、最終的には望んでコロニアに帰らざるを得ない。そんなように人格を作られてしまったかんじだろうか。もうどこに行っても幸せになれなそう。


物語の話からは替わるけど、映像の技法もすげえなと思った。壁に描いた絵と実物を組み合わせるストップモーションのやり方があるのか。なんか途中フェルト人形みたいなの織り交ぜたりとか多彩だなと思った。それと、勝手なイメージでストップモーションって静止画を繋ぎ合わせるもんだと思ってたけど、蝋燭の火がちゃんと揺らめいてた辺り、どうやら0.◯秒くらいの動画を繋ぎ合わせてるのか。
というかこれ、どっかのネット記事で見たけど、実物大の部屋のセットを使ったらしい。普通に人が暮らせる大きさの部屋の壁に絵を描いて撮って消して描いて撮って消してを繰り返したわけか。端的にやべえわ。そりゃ5年掛かるて。

ただ、本当に正直に言ってしまうと、ぶっちゃけ途中でその見せ方に飽きた瞬間があったのは覚えてる。趣向を凝らしても、心がカタい俺にはストップモーション1時間は長かったかなあ。
後半あたりでアナとペドロの顔がやたらでかくなったのは気味悪くて好きだったけど。
じゅ

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