イトウモ

オオカミの家のイトウモのレビュー・感想・評価

オオカミの家(2018年製作の映画)
5.0
新作「骨」同様、
「人間でないものが人間に見えたり、人間が人間でないものに見えたりする」サスペンスである。

チリに移住し、ピノチェト政権下で虐待と拷問を繰り返すカルトコミュニティ「コロニア・ディグニダ」を築いたナチス信者パウル・シェーファーの実話に基づく。

アニメでは、豚を逃した罪によりしゃべることを一切禁じられたマリアという少女が、きつい掟に耐えきれずコミュニティを抜け出して打ち捨てられた小屋で二匹の子豚をペドロとアナと名づけて飼い始めるというもの。少女は次第に豚を魔術によって人間化する妄想に取り憑かれていくが、コミュニティから彼女を連れ戻しにきた男の声が小屋に忍び寄る。

少女と二匹の豚の共同生活は人形によるストップモーション、小屋の壁に描かれた動く壁画、彼女たちの生活の痕跡らしき家具の配置移動として奏でられる。豚だったものが人間になり、絵だったものが動き出し、有色人種だった物が白人になり、人形によって表彰されていた空間にソファやガスコンロ、食器、勉強机だけが残されると生身の人間が去った直後の廃墟のような生々しさが残る。椅子と机に貼られたポケモンのシールにぐっときた。

触覚的な物感をべたべたとワンショットで繋げ続けていく画面には、クエイ兄弟やシュヴァンクマイエルのアニメーションよりむしろ、ジャネット・カーディフとジョージ・ビュレス・ミュラーのインスタレーションを目の当たりにした感動により近い
アニメーションであるよりも実写として静物が撮られていることへの感動が大きいように思うのだが。

たとえそれがフィルムでなくとも物質に宿る心の痕跡の散らかしに、根源的な映画の興奮を感じた。