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ジョジョ・ラビットのkmtnのネタバレレビュー・内容・結末

ジョジョ・ラビット(2019年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

冒頭一発目のシークエンスは「ムーンライズ・キングダム」に似ている。
但しあちらが不穏さと遠く離れたものだったのとは違い、「WW2終盤のドイツの話」という前情報があると途端に不安な気持ちになる。この冒頭のハッピーな雰囲気と不穏な予感のコントラストは「ちいかわ」みたいだ。


映画というメディアが得意とする「異なった立場の2人がわかり合う物語」というと幾つか思い出せる。
「第九地区」であったり、「アバター」もそうだろう。
もう少し今作に近いテイストで言えば、数年前の韓国映画「スウィング・キッズ」なんて正にドンピシャな気がする。
分かり合えなかった、あるいは文化や常識の異なる他者が歩み寄り、そして最後にこれまで敵対していた他者のために勇気を奮うという展開は、映画以外のメディアでも見かけるが、約2時間(と映画の上映時間を仮定するならば)と比較的短めのエンターテイメントである映画というものの終盤にもよく馴染むカタルシス。


ユダヤ人の少女とナチスに憧れるジョジョ少年との戦中から終戦までの物語。
監督のタイカ・ワイティティ(自身をポリネシア系ユダヤ人と自称する)や、スカーレット・ヨハンソン、サム・ロックウェル(とても久しぶりに 「月に囚われた男」を観たくなった)など出てくる大人のキャストが軒並み素敵な役柄が与えられていて、脚本と演出の妙がすごかった。


私はタイカ・ワイティティは本作が初めてで、マーベルも全く詳しくない為、この人の作家性とかは知らないけれど、とにかくポップだと思った。
とびきりに明るくてユーモアがあるんだけど、驚くほど毒っけもある。
後、昔のロックが好きなんだなと。
ビートルズネタが時々出てきて、特にタランティーノの会話劇ばりの中盤に現れる超緊張感溢れるシーンのオチが彼の有名な「ヘイ・ジュード」ネタという……(冒頭に流れる曲もビートルズの「抱きしめたい」のドイツ語版だし)。
更に極め付けばラストに流れるボウイの「ヒーローズ」である。

デヴィッド・ボウイ「ヒーローズ」はなぜ普遍的な名曲であり続ける? 映画『ジョジョ・ラビット』から紐解く“英雄”の意味
https://realsound.jp/2020/03/post-518173.html/amp

もう現代のロックは形骸化し、反権力ではないけれど、確かにどこかの時代までのロックは権力だったり、体制をこき下ろす様なものだった(今ではロックスターではなく、ポップスターやアフロアメリカンのミュージシャンが体制と戦う時代になった)。
ボウイの「ヒーローズ」もベルリンで録音された、彼のディスコグラフィに燦然と輝く名曲であるが、曲の作られた背景を知ると、この映画の為にある様な、ウィットに富んでいて、強いパワーのある楽曲である。


ポリネシア系ユダヤ人である監督であり、脚本も書き、更にはヒトラー役で出演までしているタイカ・ワイティティであるが、
ヒトラーという反ユダヤの象徴をコミカルに演じている。
この作品にはジョジョの父親は会話の中でしか現れない。巷では「敵前逃亡の末行方不明」と言われていたが、実は「反ナチスとしてレジスタンス」になっていることが語られる。
ジョジョの前に現れない父親の代わりが、イマジナリーフレンドの「理想のアドルフ・ヒトラー」というのがべらぼうに面白いし、それまでの持っていた価値観が、ユダヤ人の少女と出会うことで、ぐらんぐらんに揺さぶられて行く過程も面白い。


この作品より少しだけ後の話であるけれど、日本を代表するエンターテイメント作家である「山田風太郎」の戦中に書かれた日記をコミカライズした、勝田文「風太郎不戦日記」(全3巻。山田風太郎の原作は「戦中派不戦日記」)がこの「これまで持っていた価値観がパラダイムシフトする様」という経験を、残酷に生々しく描いていて面白いのでおすすめです。

風太郎不戦日記(1) (モーニング KC)
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ジョジョの母親の終盤のシーンや、上記のタランティーノ映画に出てきそうな緊張感のある会話シーン、あるいはキャプテンKなど、
ひとつひとつがとにかく記憶に強く残る様なシーンが連なっていて、とにかく強い映画だと思った。
誰にでもおすすめできるポップさと、絶望的なユーモアが交差し、最後には踊り出す。
そう書くと馬鹿みたいだけど、これほど説得力のあるステップはそうそうない(上にも書いた、「スウィング・キッズ」のステップもそうだった)。
誰にでもおすすめ出来る本当に素敵な作品でした。
おすすめです!!
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