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ジョジョ・ラビットのsowhatのネタバレレビュー・内容・結末

ジョジョ・ラビット(2019年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

【ポップなファンタジー映画としてのナチス】

本作の舞台は第2次世界大戦中のドイツ。主人公は10歳の男の子、ジョジョ君です。ちょっと変わった男の子ジョジョを取り巻く人々も、また変わった人たちです。

【不在の父親】
彼の父親は本作の中では不在です。「出征中」とも「脱走兵」とも言われますが、詳細は不明です。

【進歩的な母親】
彼の母親は自由と芸術とワインと音楽とダンスを愛する進歩的な女性です。実は反政府活動家であり、ユダヤ人の少女を家に匿っていますが、息子には一切秘密を打ち明けません。自分の息子を怪我させた責任をといつめ、ナチスの将校であるキャプテンKの股間を蹴り上げますが、なぜかそのキャプテンKからは「とてもいい人」と評価されています。その理由は分かりません。私の感じた最大のなぞは、自分の息子がナチス思想に心酔していくのをなぜただ傍観しているのか、ということでした。

【死別した姉】
彼には死別した姉がいたようですが、「インゲ」という名前以外は詳細不明です。

【格下の親友】
彼には「ヨーキー」という名のメガネをかけた肥満児の友人がいますが、ヨーキーのことを自分より格下と見ていることが、ジョジョの言動から伝わってきます。それでもヨーキーは気を悪くすることなく、変わらぬ友情をもって接してくれます。ジョジョとヨーキーは一緒にヒトラーユーゲントへ入隊します。ジョジョが負傷し除隊になっても、どうやらヨーキーは訓練に耐えて正規兵に昇進したらしいです。「添え物」的なキャラクターですが、外見とはうらはらに、根性も能力もある子供のようです。

【イマジナリーフレンド】
ジョジョの傍らにはイマジナリーフレンドとして常にヒトラーが侍っており、相談相手になってくれます。

【年上のユダヤ人少女】
両親は収容所に送られ、自分だけがなんとか逃げ延び、ジョジョの母親に匿われる少女。偶然ジョジョに見つかり、2人だけの対話を続けていきます。

【キャプテンK】
ヒトラーユーゲントを指揮するナチスの将校ですが、酒浸りで同性愛者でもあるようです。かれはどうやらドイツの敗戦を予感しているらしく、自暴自棄的な言動を見せます。

【ジョジョ】
ヒトラーに心酔してはいますが、うさぎを殺すことができない優しい男の子です。手榴弾の事故で顔と脚に大怪我を負ってしまいます。父親が不在であること、内気であること、ヒトラーユーゲントを負傷除隊になったこと、顔に傷が残ってしまったこと、かれの自尊心は傷ついてしまいます。そんなナイーブな男の子です。ユダヤ人の少女と出会うことでかれは大きな葛藤に陥ります。ナチス党員として少女を突き出すべきか、ナチスを裏切り少女を守るべきか。少女を突き出すことは、匿っていた母親も突き出すことになります。少女に対して恋心を抱いてしまったジョジョはナチスを裏切り、終戦を迎えます。相手の運命を握った庇護者としての強い立場から、ただの年下の男の子へ。ナチス信者という呪縛が解け、少女との立場が逆転したことを受け入れたジョジョ君でした。

それはいいとして、問題はリアルの世界では親を突き出す子どもたちが大勢いたという重く残酷な事実です。純真な子供は一度洗脳されると、簡単に解けるものではないということだと思います。その点、本作のジョジョ君の洗脳は幸いまだ浅かった、ということでしょうか。現実の出来事の重さに比べ、どうしてもファンタジーである本作は軽く感じられてしまいます。

本作の最大のスリルであるゲシュタポの家宅捜索シーン。ユダヤ人の少女が姉「インゲ」を演じてなんとかやり過ごしますが、やや強引な設定に感じてしまいました。

ただし、本作はなにしろ美術が素晴らしく、どのシーンをとっても背景や衣装が凝りに凝っています。そこだけ観ても十分楽しめる作りになっています。その美しさが敗戦でボロボロになってしまうのがまた、効果を上げています。

さらに俳優たちの演技が素晴らしいです。特にジョジョを演じたローマン・グリフィン・デイヴィスさん、アドルフ・ヒトラー役で監督でもあるタイカ・ワイティティさんの熱演なくして本作は成立しなかったでしょう。

いずれにしろ、ポップなファンタジー映画としてナチスを描くなんて、ユダヤ人の母を持つタイカ・ワイティティ監督にしかできないはずです。
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