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新聞記者のKBのレビュー・感想・評価

新聞記者(2019年製作の映画)
4.0
価値あるモヤモヤ感が残る、素晴らしい映画です。リアルに森友加計学園問題とジャーナリスト伊藤詩織さん暴行事件を連想させました。東京新聞記者の望月さん原作で、彼女が直接取材していた内容が基になっているので、政府として一番観られたくないフィクションなのでは。それが日本アカデミー賞受賞ってことなので、作品として価値のあるものが評価されてるなって思いました。

本作で描かれてる内調(内閣情報調査室)というのは、内閣官房の情報機関で、日本版CIAとも言われるらしい。組織は各省庁とくに警察庁からの出向。トップの内閣情報官は週1回、情報を総理に定例報告しているらしい。(Wikipedia参照)

ただそこでどんな情報を収集、分析しているのかは謎に包まれているようで、本作では大胆にもそこに切り込んでいく。

実際はどうなのか知らないが、スキャンダルや汚職、不正の揉み消しなど、現政権が傷つかないためなら内調は何でもやるんだなっていう印象。上からの指示とはいえ、国と家族、自分のキャリアを守るために嫌な仕事も受けなきゃならんていうのは正直辛いなあと思った。

神崎さんも杉原さんも結局、家族とキャリアを人質に責任被らされてたり、左遷されたり。なんか脅しに近いよね。大学問題も記事は出たけどハンコ押したのが神崎さんだから責任を被ってしまうし、杉原さんは元上司の死を無駄にしたくないと思ってただけに自分のしたことを後悔してしまう。

新聞記者・吉岡は大学問題の真実を追及しようと内調に切り込んでいくけど、真実を発信しようとすればするほど徹底マークされる。国側は「誤報」だといって週刊誌とかSNSとか使って、あらゆる権力を駆使して潰しにかかるんだなぁと思った。

ただ本作で考えたのは、個人が声を上げることで大きな共感の輪が生まれ、社会を変える原動力になりうるということ。だからメディアでジャーナリストが愚直に真実を明らかにする姿勢は意味のあることだし、今回のオリンピックやらコロナの時のような各所に忖度しまくりのマスコミ報道みたいにはなってほしくないなとは思います。

討論番組のシーンが差し込まれてるけど、原作の望月さんは今の日本のマスコミ報道のあり方について疑問を持ってるし、自らも色々なとこから嫌われながらも記者としてやるべき事をやろうとしてる。
森達也監督の「i –新聞記者ドキュメント」も観ると非常に参考になります。

藤井道人監督は映像の色で、感情や雰囲気を描写してますね。内調のシーンの時、こんな暗いわけないやん!って思いますし、田中哲司演じる多田さん、怖いな〜って思いました。
主演のシム・ウンギョン、松坂桃李ともに素晴らしい演技でした。
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