ゆずっきーに

新聞記者のゆずっきーにのネタバレレビュー・内容・結末

新聞記者(2019年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

新聞記者の父と2人で鑑賞。
フィクションではあるが、扱う題材がリアルの事件と強く紐づいており鑑賞の仕方は難しい。反政権映画と単に受け取って党派的感想に着地するのは誤りだと思うので、各々の演出と全体のテーマとに分けてつらつら整理しながら書いていきたい。

まずは演出。随所に表象的・画的な工夫が感じ取れて好き!
内調の色彩はじめ暖色と寒色の色使いは全編通して見事だったと思う。東都新聞社内を映すカメラワークも面白い。アップや手ブレを敢えて多用して、現場の熱量&ガサツさに鑑賞者を無理くりに引き込むアグレッシブな画作りが素晴らしかった。それからクライマックスの輪転機のシーン、いやあカタルシスえぐいっす。必殺技を繰り出す特撮ロボ渾身のアクションシーンさながらで手に汗握らされた。
松坂桃李はマジのガチで最高の役者。神崎さんのシーンも良かった。ラストシーンの吉岡と杉原は解釈も賛否も割れそうな所だが、個人的には、再びは交わることない2人の道を暗示するビターエンドかなあ…と受け止めた。過去の父に報いなければならぬ吉岡と、父としての今を生きねばならない杉原。杉原の安全と平穏が脅かされることなく、しかして良心と信念を胸に、彼の今後の人生に幸多からんことを願わずにはいられない。

職業人としての「新聞記者」の描写についても感想をば。原作望月版の、記者たちの雑多な様態を活写する史資料的な持ち味は映画に十分吸い上げられていないと感じた。
随分スルスル情報が手に入るな、記者ならもっと足使って人に会いに行くとかせえよ、とは父の言(同意する)。まあそこはストーリー展開と尺の都合もあるわね、、ということで..🤟
吉岡には狂気とストイックさが今ひとつ足りておらず、人物造形が真に迫らないと感じてしまった。情熱と理性の間に偏執を覗かせられる記者でなければこれほど巨大なスキャンダルはモノにできないのでは。なんというか 、キャラ付けが狙いすましてるなあ…と。自分はこういったドキュフィクション作品から放たれる哀しき悪役/闘う聖女的ムーブにどうも鼻白んでしまうので、微妙に相容れなさを感じなくもなかった、、

テーマについて。
いわゆる「お友達政治」に忖度し秘密主義化していく行政、そうして変質した行政にさらに忖度しあるいは抑圧されてやがて退行するマスメディアーー、という大要を前提とし、その背景に横たわる大衆の政治意識の低下を白日に晒し 、真実をその厖大な権力を以て封殺する者たちを強烈に弾劾するジャーナリズムの復権を訴えている。
ネット社会に突入して信頼出来る言説がますます不明瞭になってきた現在にあって、情報の価値相対化はむしろ権力者の側にとってこそ都合良き事態であり、ある種の信念を携えて権力の横暴を暴くというのは難しくなっている(あるいはキッチュな"ごっこ遊び"に貶められつつある)ことも事実かもしれない。他方、ラストで多田参事官の語る「この国の民主主義は形だけでいいんだ🥺」という台詞に象徴されるように、実際のところ真に"真実"を欲しているのは誰なのか、さらに言うならば真実を解明することがこの国の利に資するのか?本当に?という問いかけには非常に抉られるものがあった。
なるほど現政権が倒れたとして、次に誰が政権を担えるのであろう?「安定した統治機構を維持するためには不都合を押し潰すこともやむを得ないではないか。」という主張に、我々はいかように抗するべきか?
悪としての権力、を明快に描くことでシンプルな作劇になっていたが、その先にこそ批判的に解析すべき要素が多々横たわるように感じた。
ゆずっきーに

ゆずっきーに