takeman75

新聞記者のtakeman75のレビュー・感想・評価

新聞記者(2019年製作の映画)
1.5
まずはこの作品、今の日本に蔓延る様々な「真実」を、極力「元ネタ」が容易に推測できる形で盛り込んだ「志」には、敬意を表したい。そもそも東京新聞の望月記者をモデルにした政治ドラマ、という時点でかなりリスキーな題材となるのは明白な中、この企画が「作品」として完成したこと自体を称賛すべき、という意見も良く分かる。

しかしねえ…。この映画、お客様に入場料を取って御見せする「娯楽作」としての水準はあまりにも低く、この程度の「告発」で一丁前の政治サスペンスを語るのは、いくら何でも製作陣の頭はお花畑過ぎないかと、苦笑せざるを得ない。徹頭徹尾「どこかで見た事がある」クリシェだらけの脚本を、TVドラマ的な「お芝居」で演じ続ける役者陣に、何の創意工夫も凝らさぬまま「画面映え」だけを優先して話を進める演出の、如何ともし難い怠惰ぶりには、話が進むに連れて次第に眉間に皺が寄り、最後は欠伸が抑えられなくなった。

そもそも主人公を演じる「日本人」の女性記者を、韓国の若手女優シム・ウンギョンが演じている事自体、誰もが「何で?」となる点なのだが、恐らくご本人も全くその点で演出のフォローも入らなかった様で、何とか頑張って覚えてきた日本語の台詞を、深い意味も良く分からぬまま発しているとしか思えない「空っぽ」な表情の数々は、観ている側が逆に申し訳ない気持ちになるほど。あの傑作「怪しい彼女」で見事な主役を張った女優が、こんな中身のない演技に納得しているはずもないだろうに。

まあ諸事情を察するなら、本作の題材的に国内で主演を務めてくれる女優さんが誰も居なかったんだろうな…とも邪推してしまうのだけど、それならいっそ本作のモデルとなった望月記者ご自身が本人役で主演する、くらいの気概があっても良かったはず。そうでなくても現在進行形の「権力」に立ち向かうという、本作の気骨が文字通り「骨抜き」にされ、肝心要のクライマックスで明かされる真相も「踊る大捜査線」レベルの鼻糞リアリティでお茶を濁されてしまったら、初めは真剣に付き合おうと気合いを入れていた観客も、「結局はこのレベルか…」と溜息を突くほか無い。

ちなみに本作は元々ドキュメンタリー作家の森達也氏による初の劇映画として企画されていたそうで、もしそれが順調に進んでいたならば、ここまで腑抜けた内容には絶対にならなかったはず。まあその「結果」を観る限り、関係各所からどんな「横槍」が入ったのかは、何となく想像が付くのだけど。
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