大道幸之丞

新聞記者の大道幸之丞のネタバレレビュー・内容・結末

新聞記者(2019年製作の映画)
2.5

このレビューはネタバレを含みます

この作品は望月衣塑子の同名ノンフィクションを「原案にした」フィクションです。

最近の日本映画同様にまずキャストの「大根芝居」に慣れるのに1時間は掛かりました。実際の出来事を下敷きにした上でストーリーは進みます。

主人公は2人。父は著名ジャーナリストながら「誤報」の汚名を着せられ自殺を図った吉岡正の無念を胸に抱く新聞記者吉岡エリカ。そして外務省から内調へ出向、多田の許仕事に就く杉原。

内閣が重要な事件を改竄・或いは隠蔽しながらコトを進める様をあたかも現安倍内閣かのように仕立て上げています。

正直に書きますとストーリーが陳腐に感じました。吉岡は父の無念を、杉原は敬愛する元上司神崎を自殺に追い込んだ呵責、この2人が出会い事件究明へ向かうのですが、これは共に巨悪に対する一個の人間の正義感であれば美しいのですが、結局「身内の敵討ち」でしかありません。だから共感できないのです。

そして加計学園の事件を思わせる内閣府発の大学設立計画は兵器開発へ向かう内閣の陰謀──どうでしょう?陳腐・安直すぎませんか?これ小説にしても新人賞さえ獲れないと思います。

やはり興行を考えた結果でしょうが、松坂桃李と本田翼の夫婦やキャスティングなども安直で、本作品を「ニセモノ」にしてしまう塩梅かと思います。

劇中に無闇にTV報道番組として原案者の望月衣塑子氏が映るのですが、ハッキリ言って彼女の出演シーンはすべてカットしても問題ありません。ここも彼女のプロモーション・ムービーの様で興ざめです。

とくにリアリティの欠如は勘弁して欲しいです。まず内調に出入りする者がプライベートのスマホを自在に持ち込むことは出来ません。業務にはMDM(モバイルデバイス管理)済みの端末が貸与されます。これはスマホの状態を遠隔監視出来るのですが、いまや民間のIT企業でも当たり前の対応です。

神崎がリークして送るファクシミリの扉にはサングラスをかけた羊のイラストが描かれており、劇中ではこれが手がかりとなるのですが、国家を敵に回すリーク情報に直筆のイラストを描くでしょうか?PCで文字を打つのは匿名性を担保する意味合いの筈が、初歩的なミスと思いますし、まずないでしょう。

私が観に行った際に観客は60才平均の高年齢者だらけで、この映画を信じて政治を語ってしまう事を心配しました。あるトークショーで本作品の企画で協力をしている森達也さんが「観て欲しい」と言われていたので観たのですが。厳しい評価をせざるを得ません。