YasujiOshiba

もう一度キスをのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

もう一度キスを(2010年製作の映画)
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イタリア版のDVDで鑑賞。日本ではイタリア映画祭2011で上映されているみたい。『最後のキス』の続編だけど、最大の難点はジョヴァンナ・メッツォジョルノから出演を拒否されたこと。メッゾジョルのはこう言っています。

「そもそもわたしは続編を作ることにはちょっと疑問があります。とくに《最後のキス》のような映画はそうです。あの映画は集合的なイメージに深く根付いていますから。ですから続編の話があったときは少し疑問だったのですが、それでも監督のガブリエーレ・ムッチーノのことを当時は尊敬していましたから、原案を読ませて欲しいと頼みました。少なくともどんな物語になるのか知っておくのがプロだと思ったからです。けれども、私が読んだ原案には満足できませんでした。私が演じる登場人物(ジュリア)の成り行きが気に入らなかったのです」(http://cinema-tv.corriere.it/cinema/09_gennaio_12/mezzogiorno_sequel_ultimo_bacio_686795cc-e0d1-11dd-8e7f-00144f02aabc.shtml)

これに対してG.ムッチーノは怒りを爆発させ、これから10年は彼女と映画を撮らないと宣言しちゃうわけですね。いやほんと、この監督は口が悪い。その口の悪さで、弟の俳優シルヴィオ・ムッチーノとも絶縁状態になってしまっている。

それにしてもステファノ・アッコルシの演じるカルロと、メッツォジョルノの代役のヴィットリア・プッチーニのジュリアのふたりを見ていると、もういい加減にしてくれと思ってしまう。誰かが言っていたけど、ほとんどイタリア版の橋田壽賀子のドラマを見せられているみたい。

そりゃね、人間ってのは弱いし、誰にも醜いところがあるんだけど、それをここまで掘り起こされてしまうと、笑っていいのか、笑っちゃいけないのか。

たしかに、この映画にはエットレ・スコラの『あんなに愛しあったのに』へのオマージュっぽいものもある。Wikipedia.it には Piazza della Consolazione のシーンがオマージュだと記されていたけれど、ぼくもそのシーンで、ガズマン、マンフレーディ、サッタ・フローレスが再開して喧嘩をするシーンを思い出した。

そうなんだよな。スコラの作品は、戦後のレジスタンスの理想とその1970年代における敗北をうたいあげながら、その透徹した眼差しのなかに時代が浮かび上がっていたんだよな。

一方のムッチーノのこの作品はどうなんだろうか。誰もが欲望に翻弄されて生きてきて、結局のところ、市場がすべての時代のなかに埋没したままで、できることといえば、かつての夢を思い出し、それを反復しようとすることくらい。だから「もう一度キスして」となるわけだけれど、そのキスの味はなんとも虚しいよな。
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