ひれんじゃく

スウィング・キッズのひれんじゃくのレビュー・感想・評価

スウィング・キッズ(2018年製作の映画)
4.9
エグすぎて咽び泣いた。マジで言ってる?????????特典から抜けるらしいので泣きながら好きなシーンをまた復習して泣いた。観てよかった。本当に。
以下ネタバレ注意





















 「日常に溢れる音が全部リズムとなって自分を取り巻き出す」という表現で「初めて見たタップダンスに心を奪われた」ということを示すのがまず天才すぎて胸を押さえた。すごすぎ。一回見聞きして忘れられないものになってしまった、敵国のものなのに魅了されて頭から離れなくなってしまった、鮮烈な衝撃に打ちのめされてしまった、ギスの諸々の感情の奔流があの一連のシーンでドッとこっちにまで押し寄せてくる。

 そしてもう戦時中にダンスなんてできないと言い残して去ろうとしたビョンサムをダンスで引き留めるシーンも爆泣きした。みんながお前のターンだぞ!とタップで合図して、ちょっと間があったあとにシューズにぽとんと溢れる涙を映したあの一瞬が至高すぎる。映画作るのうますぎ…???!!?!!あの涙と肩を落とした後ろ姿だけで本当は踊りたくって仕方がないっていう悔しさだとかなんやらを全て語っててこっちまで泣けてきてしまったよ。

 「共産主義も資本主義もなければいいのに、ファッキンイデオロギー」の言葉の後にデヴィッドボウイのmodern love流しながら踊り狂うのもマジで心に来た。なんだろう………思い通りに行かない現実への怒りと、どこまでも自由になりたいというもどかしさ・エネルギーが詰まっていて、それがサビと共に爆発したようなこの感じ………………ここではないどこかに走り出した自分はただの理想でしかなくて、現実の自分は分裂する母国に振り回されるしかないっていうのを突きつけてくるのうますぎ。そしてここらへんからはみ出しものダンスチーム映画から戦争映画ってことを鑑賞者に否応なく思い出させてくるのもうますぎ。キツすぎ。

 ラストのsing, sing, singの披露もマジでさあ………………みんな各々の背景を背負って同じ舞台で同じ景色を見てるのがさあ…………重い……素晴らしい………なのになんで…なんでよ…………なんであんなことになるのよ……………あそこで終わりでよかった………そういう意味でも戦争の惨さを思い出させてきてすごかった。正直ギスの兄貴が帰ってきた時から急に空気が変わって、「そうだこれは朝鮮戦争が舞台なんだ」と、「ひとつの国が代理戦争で引き裂かれて、その中で交わり合った人たちの話なんだ」と夢から醒めた虚しさを突きつけられるしかなかった。やってられんて。やってられんだろ。たかがふたつの思想が?対立したってだけで???やりたいこともできず???争いばかりを生んで皆殺しですよ。やってられない。マジシャンがシルクのハンカチからウサギを出すように、戦争の醜さを急にサッと出してくるのがうますぎる。思想が合わないなら放っておけばいいだろ………通り過ぎればいいだろ…武器を向け合うな………1人取り残されたジャクソンがかつてのギスとダンスで語り合うシーンで締めるのがやるせなさと一抹の希望を残していった。作中でもあったけど英語が話せるのは限られた人だけで、他は割と英語⇄韓国語、韓国語⇄中国語で普通にやりとりが成立してるみたいなシーン多かったんだよね。多分通じてなくて、みんな雰囲気で乗り切ってたんだろうけど。それでもダンスと音楽があれば大方気持ちは通じ合えるんよな。言葉がわからなくても関係なしに何か届くんよな。スウィングキッズのダンスにみんな手を叩いて喝采してたみたいに、思想だとか差別だとか戦争だとか諸々の違いをちょっとは埋めてくれるのは言葉じゃないんだよな。人々の思いなどお構いなく進行する戦争への無力さはやっぱりあるし、音楽もダンスも戦争を止められないけど、ちょっとは相手と一緒に何かをしてもいいかなと思える余裕をくれるものではあるんじゃないのかなあ。
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