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スウィング・キッズのシネマノのレビュー・感想・評価

スウィング・キッズ(2018年製作の映画)
4.0
『最後まで観たとき明らかになる監督の企みが心に木霊し続ける』

観始めたらどんな印象を抱いても最後まで観てほしい作品である。
そこに映画としての監督の意図があるからこそ、できれば通しで見終えてほしい。
自分はレンタル鑑賞の悪しき癖で、序盤に少し気を抜いてしまったが完全にやられた…
その手の作品である。

朝鮮戦争のなか、捕虜収容所に入れられ、集うことになった韓国人、朝鮮人、中国人、そしてアメリカ人。
彼らは、心に憎しみや怒り、悲しみや恐怖を抱えながらも、同じ場所で生きなくてはいけないのだ。
そんな収容所で、いまも戦争の最前線で戦う韓国の英雄を兄にもつ少年ロ・ギス(D.O.)は、仲間たちと勝手気ままに暮らしていたが、ひょんなことから”アメリカの踊り”タップダンスと出合う。
それは、人種を越えた人との出会いでもあり、人生を永遠に変える生きがいとの巡り合いでもあった。

レトロでおしゃれなジャケット、子供のころに大好きだった【スウィング・ガールズ】との共通項、そしてタップダンス。
そんな魅力からレンタルした本作の導入は、まさに軽快。
流れるような展開とカメラワーク、音楽と踊りの演出でドラマの本題へと連れていってくれる。

その軽やかさに少し引いてしまうくらい、収容所は活きている。
あまりに多くの人間が一緒に生きているからだ。
労働をして
ご飯を食べて
同志と語らい
同じ床で眠りにつく
涙を怒りに、怒りをジョークに変えて。
誰もが今とは違う生き方、未来を求めながら、最も遠い場所にとらわれているのだ。

ギスとタップダンスを始めることになる仲間も、誰もが苦悩と悲しみを抱えている。
その心を、身体と一緒に動かして、踊らせる。
間もない時間だけ、彼らはこの囚われの地から少しだけ飛び立つことができるのだ。
軽快な導入と、次第に本格的になるタップのステップが心地良い。

本作は、そして戦火の色を濃くしていく。
彼らがステップを踏むのと同じ地に血は流れて、人は倒れる。

彼らが軽快に打ち鳴らしていたタップの音にも、やがて悲しみ・不安・恐怖・怒りの感情がこもっていくようだった。
それでも、彼らは過酷で残酷な人生を続けるうえで大切なもののため、踊り続ける。

意図された演出、構成、そしてタップダンスで「感情」「世情」「希望」を映し出すカメラワークは見事だった。
戦争に希望を打ち砕かれた彼らは何を思い、希望を打ち鳴らし続けたのか。

彼らのタップの師となる元ブロードウェイ・タップダンサー、ジャクソンもまた夢を断たれた男。
しかし、ジャクソンは淡々と言う。
まだまだ素人でバラバラの彼らに、タップのチームで世界に進出できる、と。
その言葉の意味とトーンに最大級の深みをもたせる終盤の展開が、本作をただの良作には留めなかった。
そして、真のラストシーンで作品の真意が心の深くまで伝わってくる。
音が切れても、心のなかで打ち鳴らされる人生と希望のステップが響き続ける。

日本でもリメイクされた【サニー 永遠の仲間たち】(11)のカン・ヒョンチョル監督作品とのことだが、
前半は余すところなくその軽快な魅力に、中盤はタップと人生が呼応するカメラワークに、そして終盤の心に作品を刻む展開に…
その映画的な企みにしてやられる一作だった。
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