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マルモイ ことばあつめのmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

マルモイ ことばあつめ(2018年製作の映画)
5.0
泣いた、泣きまくった。
自分たちの母国語を守ろうと、文字通り命をかけた人たちがいた事を知りました。

こちら大阪でもコロナ感染がじわじわと増えてきている中、またしばらく電車で映画館に行くこともできなくなるかもしれませんが、今日この作品を観に行けて本当に良かったです。

日本が韓国を統治していた1940年代、韓国では、学校で母国語である朝鮮語を禁じられ日本語が強要されていました。
朝鮮語を話すと教師から厳しい体罰を受け、「国語」の授業で日本語が教えられ、1910年の併合から30年間の日本の支配によって、日本語しか話せない朝鮮の子どもも出てくる時代でした。

そんな時代に、朝鮮語を後世に残し守っていこうと、厳しい日本の監視や取締りをかいくぐりながら、朝鮮語の辞書を作るための言葉集め(マルモイ)を懸命にした朝鮮語教師、学者や名もなき多くの人たちを描いた作品です。

日本統治時代の事は、「密偵」「暗殺」「金子文子と朴烈」「空と風と星の詩人〜尹東柱の生涯」などでも描かれていましたが、「密偵」や「暗殺」では武力で日本の支配抑圧に抵抗したレジスタンスの闘いだったのに対し、本作では母国語を守るという事で民族やこの地に根付いた文化を守り、アイデンティティを守るという闘いだったので、尹東柱が朝鮮語で詩を書き続けて拷問死した事と共通しています。

自分たちの言葉を奪われ、名前さえも奪われた哀しみや屈辱はどれ程のものだったでしょうか。
ただ辞書を編むというそれだけの事が許されず、日本化を強要されるという非道さをあらためて思います。

逆に言えば、自分達の文字や言葉を持つことがアイデンティティや民族意識を高める事と繋がっていて、支配側からすると脅威であったということなんだと思います。

物語は、学校にも行けずに朝鮮語の読み書きができない前科者の男が、ひょんなことから朝鮮語の辞書を作るための言葉集めに携わるようになり、ハングルの読み書きを学び、言葉を守ることを通して民族や文化を守り抜こうとする人たちや、幼い娘と中学生の息子との関わりから、葛藤をこえて自分がどう生きるのかを見出していくという話で、この男をユヘジンがめちゃくちゃ魅力的に演じていて、いっぱい笑わせてもくれ、泣かされもし、この人は「タクシー運転手」や「コンフィデンシャル 共助」「1987」でもそうでしたが、またもや最後はめちゃくちゃカッコ良く見えるという不思議な体験をさせてくれました。
ほんとに素晴らしい役者さんだとつくづく思うのです。

ユヘジンが出ているおかげで、重いテーマにもかかわらず、楽しく見れるんです。
愛国心だなんてたいそうなものなんてなくて、でも朝鮮語の読み書きを習得して世界が変わり、生き方も変わった、自分を変えてくれたこの言葉を守りたいという気持ちや、友情や親子愛が詰まっていて、ハンカチびしょびしょになるくらい最後の方は涙が止まらず、胸が熱くなりました。

こういうの見てると、もし日本が戦争に勝ってたら、朝鮮半島への支配も続いて朝鮮語は滅ぼされたのかも…と思うと恐ろしいし、とても残酷です。
終戦後も朝鮮半島はずっと苦しい時代が長く続いたけど、日本から人々の手に朝鮮語が取り戻せてほんとに良かったと思いました。

自国の暗い歴史を見つめるためにも、日本人としてもこの作品を見た方がいいです。
いろいろ勉強になりました。
素晴らしい作品でした。

45
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