ゆずっきーに

天気の子のゆずっきーにのネタバレレビュー・内容・結末

天気の子(2019年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

観返すべき動機があって再度鑑賞。

設定はいつもの新海ワールドを踏襲していながら、ストーリーや主題に斬新さを感じさせる本作。葛藤する主人公が失敗し苦しみながらもゆっくりと「大人」に向かって歩んでいく、、というのがこれまでの新海作品の王道だとするならば、今作は主人公・帆高が大人になる過程を描かずに徹底して子供のまま最後までブッ走る。セカイと好きな人の天秤を前に特に悩むことなく後者を選ぶ獣的な様はこれまでの新海作品には描かれなかったものであり、そこが本作のキモと言えるだろうか。
我々大人からしてみれば、他者やコミュニティをかなぐり捨てる選択というのは尻込みをし、大抵の場合回避しようとする。そんな葛藤を一足飛びで飛び越えエゴを選び取る帆高に対して、共感ままならない鑑賞者が多いのもまた必然だ。「傲慢キッズ乙」「他人を振り回しやがって何やってるんだこいつは」「恩人に銃撃キメるとか頭逝きスギィ!」といった感想ももっともではある。
新海監督もそこは万全に予測していて、須賀という成熟した大人を劇中に上手く配置して帆高の対比としている。若さゆえのエゴをいつしか捨て、社会の海でもがく須賀がしかし最後に帆高を助け後押しする描写は、世の「大人」たちをハッとさせるものになったことだろう(正確にはその前の涙が効果抜群だと思うけど)。
その意味では、この『天気の子』は無鉄砲な10代後半、或いは生きることに慣れてくる30代~40代に刺さる作品であったと鑑賞後に感じた。20代後半の自分にとっては、帆高と須賀の中間でアワアワと展開を見守ることしかできず、かといって就活生の夏美は描写が少なくキャラが確立していないので共感も困難で、映画の大きな波から取り残された気分にもなった。別に映画は感情移入できなければ面白くないというわけではないのだが、同一化を伴うに越したことはない。

ターゲットの方に話が逸れてしまったが、帆高の行動の特異性(セカイより陽菜を怯むことなく取る動物性)を鑑みるに、やはり新海監督はオーソドックスなジュブナイル冒険モノから本作を敢えてズラそうと試みたことが伺える。映画を眼差す我々は主人公の葛藤を予測・期待する。それを経ないままラストまで突入するから肩透かしを喰らった気分になるわけだが、決して物足りない、という話にはならない。

直情的で荒々しい主人公の姿に高潔さ・崇高さを見出せるか否かが作品評価の分かれ目になっているのだろう。二度目の発砲をどう捉えるかも、作り手側から試されていると断言してよい。
個人的には、不器用な童心と愚かなまでの一途さをいつまでもゆめ忘れるなという新海からの訓戒と受け止めて、とても良い映画だなあと今は思っている。人間の幼さとは即ち実直な粗暴さであり、ゆえに愛おしく尊いものである、と。極めて大切なことを思い出させてもらった。初回鑑賞直後のカタルシスは得られなかったが、もしかすると2回以上観るのがやっぱり正解なのかもしれない。
世の中では今作がハッピーエンドだバッドエンドだと未だ揉めているが、正確にはそのどちらでもない、或いは立場で結論も変わるということだろう。帆高からすれば「大丈夫」の一言でハッピーエンドだし、客観的には無事東京が水底に沈んでバッドエンド。どちらの側に立って鑑賞するかでその人のものの見方を測れるという意味でも興味深い。


あとはぽつぽつ各論を。

音楽については、グランドエスケープが絶賛されたが個人的には既視感アリアリ。君の名は。と同じことされてもねぇという感じ。歌だけでなく劇中BGMもRADだろうが、君の名は。と似通っていて結果的に作品の雰囲気も寄ってしまっている気がした。他の人に頼めばよかったのにとも思う。すずめの戸締まりにも感じたことですが。

背景は相変わらず素晴らしい。雨の描写もそうだし、晴れるだけでカタルシス作れちゃうのはいい意味で卑怯。花火シーンでは非常に意欲的な技術的挑戦を感じた。

タイアップしまくっているのは率直にどうかと思う。商業臭が強いので、作品をフェアに見れなくなる。作り手の側から「ここは現実の商品を登場させる方が作品がより良くなる」と言って主体的にやっているならまだしも(私の大好きなブラックジャックにも「ボンカレーはどう作ってもうまいのだ」という台詞が唐突に挟み込まれるのだけど、あれはBJの生活感をフッと覗かせる極上の描写で感嘆する)、今回は間違いなくスポンサーが「ウチのこの商品出してくださいっス!」と押し付けまくった、或いは出すことありきで作品が作られたのだろう。不純なお金が作品内世界に投影されることについて制作陣が疑問を抱かなかったのだとしたら、甚だ遺憾である。世の人は何とも思っていないかもしれないが。

以上、物申したくなる点はポツポツありつつもテーマおよびエンタメとしての完成度は圧巻流石だった。常道から外してこんなに面白いんだから新海覇権はまだまだ続くだろうな〜
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