ししまる

天気の子のししまるのネタバレレビュー・内容・結末

天気の子(2019年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

言の葉の庭が大好きだった。
セカイ(外部)は自分たちにとって変えられないものだが、それでも寂しさとか切なさとか孤独が通じ合って結ばれて行く2人の話がとても好きだった。

秒速も似たところがある話だと思う。
君の名は。は、セカイを変える話だが、それは何千年と続く奇跡の1つで、最終的にはそれは記憶から失われる(私の解釈では)。世界のホメオスタシス。

今回は女の子を救うために本当に世界を現世で具体的に行動で変えてしまった。
力と富を得た新海誠ワールドではセカイも屈服するのである。
それがとても悲しかった。
思えば君の名は。の大ヒットはまさしく作中の奇跡のようなものなので、成功体験を経た新海誠にとって世界は強くて超えられないものではないのだろう。

大傑作なのは認める。
特に君の名は。の後にこれだけの作品を作ったということはとても大きい。一発屋では終わらない、本物の国民的アニメ監督になるかもしれない。
本当に新海誠が好きだ。あらゆるカットが好きだ。でもこの物語を手放しで褒めるわけにはいかない。賛否両論の私は否側になるだろう。
加点要素5億点、減点要素3億点で計2億点という感じ。
まず冒頭から主人公に1ミリも共感できないところから嫌な予感はしていた。

まずお決まりだけど主人公がほんとキモい、主人公どころか作品内価値観がキモい。「キモい、だから良い」という問題ではないぐらいキモい。
まーーーた「どこ見てんのよ♡」が出てきたときは心が死んでしまった。
パンフレットにはホダカとヒナについて恋心ではなく他者を求める気持ちだ、と述べられているが、女性(ヒナ、ナツミ)は性的な存在として描かれる。男性でそのように描かれるキャラクターは1人もいないのにである。男性は人間であり女性は女性。
まじできもい。
結局男性目線で作られた物語であるということで、別にそれを殊更に非難するつもりはない。かわいい女の子はかわいい。
だがキモいものはキモい。勘弁して。
宮崎駿みたいに極限まで恋愛要素を減らしたボーイミーツガールにすれば人間同士の他者を求め合う関係ということで納得できたと思う。


最大の許せないところはやはり結末である。
いやわかるよ。いいたいことはわかる。そのロマンチシズムとヒロイズムで酔いたいんだよね。賛否両論あるとか言って構えてたし。
でも肯定できない。
若さ・親の不在/貧困→刹那的状況→刹那的決断→セカイの破滅
いやわかるよ。この流れ。中学生だったら絶賛してたと思う。愛のために君がいれば世界すらいらないとか中学生だったら言われたかったよ。
例えば、破滅した状況がまずあって、それを肯定する物語なら全然好きだった。
破滅させちゃうんである。魔王か?おまえになんの権利があるのか?
いやわかります。かわいい女の子が自分のせいで消えちゃう。その子のことを世界は全然考えてくれない、知ろうともしない、だからそんな世界なんか消しちゃえと。
わかりますよ。感動的ですよね。

私が住む家は戦後すぐ建てた家が受け継がれたものである。
それを躊躇なく沈めやがったのである。
なるほど何百年か前は海だった。かもしれない。だから何十年受け継がれた私の家は沈められた。なるほど。
一軒という話ではない。その土地で人々が一人一人がそこで笑い泣き苦しみながら生活した土地。
失われたものの大きさを彼は知っているだろうが、その中身を、細部を、きちんと見つめることは永劫ないだろう。どうせ死者はいないとか言うんでしょ。
シン・ゴジラで私が号泣したのは何百年とそこに刻まれてきた歴史が、生活が、一瞬にして破壊されたからだ。
「避難とは、生活を捨てさせること」

刹那的若者↔︎社会(警察)という対立。
社会は個人の生活を、権利を否定するものなのか?
いや違う。みんながなるべく幸せに長く生きられるように、権利を出し合って政府を作る。社会契約論。
パンフレットで、若者の貧困も背景にある(君の名は。のパンケーキ、天気の子のジャンクフード)と述べられていたが、じゃあなおさら社会も世界もぜーーんぶどうでもいいでーーす!!!とやるのはよくない、というかダメだろうと思う。
貧しいからこそ社会に関わり形作り進歩させるんでしょう。どうなっても知らねえ!じゃないんだよ。選挙に行け。
私はホダカのヒロイズムに乗れない。
世界が自分を理解してくれないのではない。自分が世界を理解していないだけだ。そして銃は捨てろ。

監督がやりたいことはわかる。大概無粋な感想なことも織り込み済みな感想なこともわかる。
他者がいないなんて批判をガチのセカイ系にしてもしょうもない。でも言わざるを得ない、こんなに新海誠が好きなのに………
なにもできないという無力感や閉塞感の中でそれでも芽生えた絆を大切にする登場人物たちが好きだった……いや最近見てないからうろ覚えだけど…

自己犠牲なんてくそくらえという風潮が最近あるという話を聞いていて、それは良いことだとおもっていたが、だからといって世界をぶん投げて俺は知らんもともと世界が狂ってたとかかっこつけるやつは嫌いである。

良いところはたくさんある、なにせ5億点分ある。かわいいキャラクター、花火のカメラワーク、美しい背景……
だけどさ、前までは君そんな傲慢じゃなかったじゃん、もっと丁寧だったじゃん。
弱いもの、世界を変えられない有象無象を軽々しく捨てるような人だとは思ってなかった。名声を得たから?力を得たからなの?
ストーリー展開も後半ちょっと雑だし。

パンフレットやインタビューを読み込んでからもう一回見に行く。ゆっくり考えたい。
ししまる

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