なべ

天気の子のなべのレビュー・感想・評価

天気の子(2019年製作の映画)
2.6
 手描きの絵は、ときに写真のリアリティを上回る。天気の子の背景画や人以外の描き込みはそれはもう圧巻。ディテールアップし、陰影を操ることによって強化された超現実が何やらとても特別な意味を持って見えた。
 例えばビニール傘越しのグレーの空なんて、実写だとなんでそんなカットを撮ったん?と、センスを疑われそうな構図なのに、人の手によって描かれたそれはとても意味あり気に訴えかけてくる。雨のにおいや気配も感じ取れそうなくらいに。
 しかしながら、その圧倒的な画力に見合うだけのストーリーが紡がれていないのがこの作品のいびつなところ。残念ながらプロットも脚本も貧相だ。そもそもドラマが薄っぺらいのだ。ぺらっぺら。
 一応、自然の摂理のために個人は犠牲になるべきかって大層な問いかけはあるのだが、結論に至るまでの過程や奥行きが中途半端で、本当にそれでいいの?もうちょっと掘り下げた方がよくない?それできれいに終われる?と心配になったほど。案の定、観終わっても解決した感じがしなくて(かといってきちんと問題を投げかけられた感じもなくて)すごくモヤモヤした。
 日本は滅ぶけどぼくは陽菜が好きって、なんだそれ。持たざるものの手に委ねられる未来は、そんなん知らんがなとスルーされて終わる。時を経て再会する2人を見てもぼくは泣けないよ。
 もしこの物語に教訓があるとしたら、未熟な少年少女に、彼らの手に余る決断を委ねたら、よくない結果に陥りがちってところだろうか。よくもそんなしょーもない話にいい歳したおっさんをつきあわせたな!
 だいたい拳銃の話いる?あれって別の人が考えたような、取ってつけたようなちぐはぐな違和感がなかった? 天気の話とは明らかに異なる感触があったんだよね。
 15の少年が未熟で拙いのはわかるよ。でも、その未熟さを描くのに拳銃いるか? こんなところで男根主義?
 そういうちぐはぐさが気持ち悪くて、ちっとも共感できなかったんだよね。
 設定が童貞っぽいというのは新海誠作品に対してよく言われる評だが、うまいこと言うなあ。まさにそんな感じがする。独りよがりの正義、独りよがりの納得、独りよがりの真実。デイミアン・チャゼルも同様の童貞っぽさがある。
 画力の素晴らしさに感動しそうになるけど、そうはいくか。ぼくはそんなにバカではないのだ。こういう拙い話を巧い絵で感動させようとするのは悪質だ。商業的成功を目標に掲げながら、深められるところ、語るべきところを掘り下げず、そこにドラマ性を見出さないのは悪だと思う。そんなところはどうだっていいと、深みを否定する新海氏の欺瞞や傲慢さ、子供っぽさが不快なのだ。ビバ・無責任!をやるならやるでもうちょっと真剣に構成を考えようか。
 絵への好印象と脚本への不快さで、心の中に嫌な後味が残る残念な映画だった。

追記
風呂に浸かってつらつらと考えてた。あー!そうか。ヒット作は作りたいけど、責任を取るのは嫌だって新海ちゃんの心情を映画にしたのか。なるほど。よくわかった。新海ちゃんは傷つきたくないから深みに行かないのね。うん、よくがんばったね。上手にできたね。
 作品の責任を負う覚悟がないなら制作なんてやめちまえ!
なべ

なべ