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ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネスのmegurosのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

マルチバースというSF的題材を用いながら(我々誰しもが考えたことがあるだろう)あり得た別の人生の展開や可能性について考えさせられる。

生まれるはずだった子供たちと現実を改変して暮らしていたワンダは、別のユニバースの自分が見えてしまうことで狂っていく。一方でストレンジは、1万分の1を選択してクリスティーンと一緒になる人生を選べなかった男として登場。壊れていた時計を修理する場面に象徴されるように、ストレンジの中でも止まっていた時が動き出すラストに向けた映画の構成は見事としかいう他ない。

またそれは自分がヒーローであるためには何をすべきか?というヒーロー論にもなっている。ヴィシャンティの書があっさり焼けてしまって万策尽きたと思ったところでワンダ自身がワンダを止めるという展開になるが、自分含めてダークホールドを消し尽くすあの姿は自己犠牲を厭わないヒーローのそれだった(唯一の救い)。

ストレンジ側では、ストレンジの本質はどのユニバースにおいても変わらず世界にとっては危険な存在で、アメリカ・チャベスは見殺しに、クリスティーンとも決して上手くはいかない男なのか?が問われる。それは運命論から我々はどのように脱するのか?という問いでもあるが、アース616の我らがストレンジが示したのは、仲間の存在が自分をも変えうるということだった。自分1人では変えられないかもしれない自らの本質を、他者との関係において良い方向に変えていくということ。その人間世界のビジョンは美しく、だからこそストレンジがスプーリームソーサラーであるウォンに敬意を払う場面も感動的だったのだと思う。

冒頭からクライマックスの鶴瓶打ちで飽きることがない。サムライミ印のホラー演出はマーベル映画では新機軸だが、最終的にゾンビストレンジにまでたどり着くわけで、物語の要請にもしっかり応えた演出だったのだと感激。悪霊の千手観音は初めて見たが、あまりのカッコ良さ/頼もしさに心の中でガッツポーズが止まらなかった。クリスティーンのゴーストバスターズも良かった。

ただ、観客は選ぶと思われる。Multiverse of Madness, すなわちMoMは母親ということなのだろうが、ワンダがスカーレット・ウィッチとして闇堕ちしてしまう姿は、不妊治療をされている方にとっては苦しすぎて見られないのではないか。アース838のイルミナティ惨殺にしてもファミリー映画では明らかにない。ワンダはこれで退場と思われるが、同じようにストレンジが今後ヴィランになったりしなければいいが...。マルチバースの全面展開、F4やX-MENその他作品とのクロスオーバーまで展開されてもう今後は一体どうなるのか。シネマティックユニバースの今後が気になって仕方ない。
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