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ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネスのumisodachiのレビュー・感想・評価

3.8


『スパイダーマンNWH』の後の世界。マルチバースを描く。

マルチバースを移動できる能力を持った少女を守りながら、その力を狙うある人物と戦う。←端的に書くとこういうストーリー。

【以下ネタバレしかないです】














マルチバースを移動できるが、その能力を制御することができない少女アメリカ。マルチバースの扉を開いたことによって脅威が訪れることになってしまい、スティーブ(ドクターストレンジ)はワンダに助けを求めに行く。しかし、ワンダこそがアメリカのパワーを狙う人物だった。というわけで、本作の中心は完全にワンダになっている。

『ワンダビジョン』で何もかもを失ったワンダは、息子たちと暮らす自分を羨むあまりに闇落ち。完全に正常な判断を失ってしまっていて、殺戮の限りを尽くす。もちろん最終的には世界は救われるものの、ワンダは徹頭徹尾あまりにも気の毒だった。

マルチバースの描き方はなかなか面白かったし、程よく複雑で興味深かった。しかし、ほぼ同時に公開されスマッシュヒットを飛ばしている『Everything Everywhere All at Once』の方がユニークでより複雑な描き方をしているので、残念ながら見劣りする。予算は全然違うだろうになあ。やっぱりお金の問題ではなく、発想の問題なんだろうなあ。

しかも、世界の脅威の発端が個人の願望にある、という点まで同じなので……比較されるのは必至。おそらく、『Everything Everywhere All at Once』はわざと本作に公開時期を合わせて来たのだと思う。ちょっと可哀想だったね。

そもそも、『ワンダビジョン』を履修していないとイマイチ乗れないストーリーというのが気に入らないのだが、MCUとはそういうものだと納得しよう。しかし、それでも私は本作のストーリーを受け付けることができない。

すべてを失ったワンダが、ごく個人的な感情に支配されて大量に人を殺す。正気を失った利己的な母親キャラというのがステレオタイプすぎてまず無理。そして、自分の子どもに固執するあまり、アメリカという他人の子を犠牲にするのを厭わない設定にしたのも無理。子どもを犠牲にすることの反倫理性を冒頭からハッキリと示した上で、その枷をワンダに負わせた挙句、アメリカ本人に「自分の子どものために他の子どもを殺すわけ?」みたいなことを言わせてしまったのが無理。せめて指摘されずに自分で気づくようにしてあげてよ。

しかも、マルチバースにいる自分の子どもたちに「魔女!あっちいけ!」みたいなことまで言われてさあ。あまりに酷くない?集団いじめか。子どもと自分が微笑み合っているところを間近に見て我に返るとかさ、アメリカが罵倒するのではなく勇気を持ってワンダを抱きしめるとかさ。他にいくらだってやりようがあるじゃない?随所に現れるサム・ライミ作品らしい演出は楽しかったものの、完全にゾンビみたいになっちゃったワンダが最後の最後まで皆にボコボコに責められて死ぬっていうのは……大義のために大いなる苦しみと引き換えに自分の娘を犠牲にしたサノスのようなポリシーも感じなければ、NWHのノーマンの最期のような悲哀も感じなかった。ただただワンダが不幸!!それだけ。

原作コミックがどうなっているのかは知らないし、単体で観たら楽しい映画ではあった。しかし、Everything Everywhere All at Onceと比較して見劣りしてしまうこと(なお、本作の方が万人受けするとは思います)、ワンダの扱いがあまりにキツかったことから、あまり楽しめなかったのは事実。残念。

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