tntn

ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネスのtntnのレビュー・感想・評価

3.5
俳優の眼球へのアップとそれに重なるドラッギーなオーバーラップに、ブルース・キャンベルのカメオ出演に、呪いの書と悪霊の登場に、サム・ライミの映画の細部を見出せば見出すほど、作家主義とマーケティングがインカージョンした事実を突きつけられる。
突貫工事の末にオファーされたサム・ライミはおそらくマーベルが要求してくる世界観、キャラクター、用語のどれにも大して思い入れはないのだろう。で、その状況をディズニー/マーベル側が良しとしていることが実はかなり重要な問題な気がしている。
この映画の制作サイドに、キャラクターを愛し、映画・ドラマシリーズの物語をきちんと語ろうとしている人間はどれほどいるのだろうか。
忙しないカメラワークと編集、斬新なヴィジョン、的確に配置されるモチーフらによって、オープニングから停滞することなくエンタメ映画を作り上げたサム・ライミの手腕は冴え渡っている。しかし、記号的な「サム・ライミ映画ぽさ」からは、巨大資本に対する彼なりの抵抗、というよりも、ディズニーがファンサービスの裾野を映画オタクにまで広げて、顧客開拓しだことしか見えてこない。
マーベルシネマティックユニバースの中ではかなり完成度の高い方の映画だと思う。けれども、スタジオシステムの天才が生み出す一定水準以上のアクションとドラマが空疎に再生産されるのみで、それを覆い隠すかのように「意外な」キャラクターの登場or死と「わかってる」布陣を揃えているのだとしたら、MCU映画に何を求めれば良いのかはもうわからない。
tntn

tntn