ずどこんちょ

ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネスのずどこんちょのレビュー・感想・評価

3.2
ドクター・ストレンジを主演に据えたシリーズ2作目。前作同様、映像はすごい。迫力もすごい。
でも、さすがにこの手法はちょっと……

アベンジャーズでも活躍したスカーレット・ウィッチことワンダ・マキシモフが完全闇堕ちしています。今回のストレンジの敵は最凶の魔女と化したワンダなのです。一体何があったのか。
まぁ大雑把に語られなくもないのですが、これ、実は闇堕ちした理由を調べてみるとDisney+独占配信のワンダとヴィジョンを主演に据えたドラマシリーズ『ワンダヴィジョン』にその背景がはっきり詳しく描かれているようなのです。
なぜ彼女が子供や家族に執着していたのか。ネットでドラマのあらすじだけ調べたら、「夢で見たから」では片付けられない無念がちゃんとあったじゃないですか。むしろ、本作の立ち位置もドラマシリーズの結末の話に近いじゃないですか。
ドラマからの映画化なら日本でも確かにありますけど、独占配信という見る人を選んで間口を限定したシリーズからの映画化は、さすがにターゲットを絞り過ぎなのではないかと。
あれですか。もうMCUはそれなりのお金払って付いてこれない人は付いてこなくていいよ、っていう不親切な感じでやってくんですか……

夢で見た謎の少女アメリカと出会ったドクター・ストレンジ。ワンダが差し向けた怪物に追われていたアメリカは別次元の宇宙であるマルチバース(つまりパラレルワールド)に繋がる能力を持っており、先の戦いで家族を失って子供を持つ世界に強い憧れを抱くようになったワンダは、アメリカのその力を奪って別の世界の自分の生活を奪おうとしていました。
ストレンジらが別次元のワンダの人生を奪うことへの是非を論じても、もはやワンダは目的達成のためなら、あらゆる妨害も排除する闇の魔女と化しています。
ストレンジはワンダの攻撃から逃げながら、マルチバースを飛び越えて反撃の手段を探るのです。

まさかのホラー描写強め。
アメリカを執念深く追いかけるワンダは護衛ロボットの重油を浴びて、足を引きずりながらどこまでら追いかけてきます。さながらドロドロの血を浴びた「キャリー」のよう。宙を浮くとこまでそっくり。
サム・ライミ監督の原点とも言えるゾンビホラー要素も入っていて驚きました。まさかゾンビが闘うことになろうとは。
別次元で亡くなったストレンジを埋葬するシーンがそのための伏線だったのですね。

そして、なんでしょう、あの音楽を使った戦いは。斬新過ぎます。いくら魔術を使った戦い方でも、少しアニメ感が強かったです。
とは言え、発想の奇抜さとそれを実際に映像化してしまう大胆な挑戦はすごい。
「音楽で闘う」という、この文字だけ見たら何のことかさっぱりイメージできないであろう戦闘シーンを作ったのは面白かったです。

さらに、もっとも興奮したのはあの人気シリーズとの繋がりです。
実は『ワンダヴィジョン』でもリンクするネタがあったらしく、今回遂にあの有名キャラが登場します。いよいよMCUの世界観にあのシリーズの要素が入ってくるとなると、嬉しい限り。私自身、あのシリーズの大ファンなので。
しかも、サム・ライミと言えば『スパイダーマン』シリーズですが、彼がスパイダーマンを手掛けたほぼ同時期に製作されていたのが、あの人気シリーズです。
どちらもマーベル・コミックを原点とした作品の実写化であり、どちらも人気に火が付いてシリーズが次々生み出されたということで、当時から並列され、比較されることもあったはず。
それをサム・ライミ監督がオリジナルキャストで再び登場させたのだから感慨深いものがあります。

MCUでは前作、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でスパイダーマンの垣根を超えた驚愕の共演を果たしています。これらのサプライズは、これまでのMCUがただの一連のヒーロー映画の枠を超え、確かな実力と注目度を集めてきたことにより、映画業界の未来の一端を担う存在へと成長したからこそではないでしょうか。
タブーだと思われていた業界の垣根を超えて握手し合えたのは、そこに喜びや感動を覚えるファンが世界中に沢山存在すると理解してもらえたからです。
せっかくファン層を広げてきたのですから、やはり配信限定という形で物語を分断するのは残念な気持ちです。

本作ではマルチバースの存在が主なベースとなっています。これまでの常識がまったく通じない別世界。
我々の世界とは違って緑豊かで穏やかな世界もありますが、一方で現実が崩壊し始めた世界もあります。
改めて分かったのは、今の世界よりも幸せになれる世界を求めても、必ずしもそういう世界が存在する保証はないということです。むしろ、今よりもっと悲惨な世界は別の宇宙に無数に存在しているわけです。
闇に堕ちたワンダが迎えた結末。
それは、彼女が叶えようとしていた理想というものが何だったのかを突きつける、意外と穏やかな結末でした。